くだらない旅をしよう
高校時代の友人と、久方ぶりに会った。
おそらく3年ぶりくらいの再会だった。
各々大学も違うところに進み、まして就職後などさらになかなか接点がなくなっていたため、こうしてかなりお久しぶりの再会になってしまった。
だが会ってすぐに、安心した。
皆、各々取り巻く環境や人生のフェーズにばらつきはあれど、高校時代とさして変わらぬ、くだらない話で笑い合えたのだ。
地元近くの飲み屋に入り、まずは各自の近況報告をした。
そして案の定、高校時代当時の思い出話へと話題は移る。
倫理の先生の口癖、同級生が起こした事件、放課後のちょっとした懐かし話、、、
高校を卒業してから何度か同じメンバーでこうして会って話しているが、毎回同じようなことばかり思い返しては、毎回同じようにゲラゲラ笑い合っている。
そこに、生産性なんてものは微塵もない。
まさにくだらない時間だと思う。
◇◇◇
『葬送のフリーレン』と"くだらない"旅
最近Netflixで、『葬送のフリーレン』というアニメを視聴している。
これが非常に面白く、久しぶりにアニメの世界に引き込まれているところだ。
超簡単に、本作についての概要をお伝えする。
原作はアベツカサ先生によるファンタジー漫画作品で、物語は、魔王を倒した後の世界を舞台として展開される。
物語の主人公であるフリーレンは、この魔王討伐にかつて参加したメンバーの一人で、一緒に魔王討伐の旅をした仲間の足跡を追って再び旅をしていくという内容だ。
※以下、本作のネタバレを含みますのでご注意ください。
私が視聴しているのはそのアニメ版であり、先日その第6話にて登場人物の一人であるヒンメルが発していたセリフに、非常に感銘を受けた。
上記のセリフは、フリーレンがかつて魔王討伐の旅をしていた時を回顧するシーンで描かれ、当時の仲間であるヒンメルが、同じく仲間の一人、アイゼンに対し発したセリフだ。
直前にアイゼンはヒンメルに対し、
と発している。
いや、非常に奥ゆかしい。
先のセリフは、アニメ第6話を通し、一際きらりと光って聞こえた。
もちろん現実世界に魔王は存在しないし、私自身、命をかけた旅の経験などあるはずもない。
だが、彼らの旅の険しさ、彼らが背負う覚悟なんかを想像するに、その旅を笑い飛ばせるような経験にしようだなんて、常人には到底考えが至らないと思う。
そして、このヒンメルというキャラクターの度胸の大きさと同時に、ある点について気になった。
それは、「くだらない」をポジティブなコンテキストで発しているというところだ。
◇◇◇
「くだらない」の再解釈
「くだらない」の辞書的な意味としては、
のようである。
これだけ見ると、非常にネガティブな意味を持つ言葉だと感じる。
一方で先のヒンメルの発言では、「くだらなかったって笑い飛ばせるような」が「楽しい旅」というポジティブな表現にかかっている。
ここにヒンメルの、ひいては著者アベツカサ先生のワーディングの妙が炸裂している。
つまり、ヒンメルという人物が、本来ネガティブに捉えられる事象(=過酷な旅)を、いかにしてポジティブな時間(=楽しい旅)として再解釈しているか、この意味の置換を、本来ネガティブに捉えられる言葉(=「くだらない」)をポジティブなコンテキスト(=「楽しい」旅)で使用することで表現しているのだ。
このセリフを最初に聞いたとき、冗談ではなく鳥肌がたった。恥ずかしながら。
これで「くだらない」という言葉も報われるな、とさえ思った。
◇◇◇
Vaundyと"くだらない"愛
この感動の最中、ある楽曲の歌詞が私の頭に想起された。
上記は、Vaundyさんの『恋風邪にのせて』という楽曲の歌詞の一部である。
タイトルからも分かる通り恋愛についての歌なのだが、上記の部分、特に「くだらない」という形容詞が意味するところについて、ずっと思案していた。
我々にとって、恋愛というものの偉大さ、人生における価値の大きさについては説明の必要がない。
一方で、その重厚さへのカウンターとして、「日常の些細な出来事に幸せを感じるんだよ〜」とか、「特別なことなんて別になくてもいいんだよ〜」というような意味を含ませたラブソングも数えきれないほどあるだろう。
だが、私がVaundyさんの流石だなと思うところは、この「日常的な幸せ」を振り切って「くだらない愛」とまで言ってしまっているところだ。
その言葉単体ではネガティブに捉えられるような言葉を敢えて使うことで、その人の持つ価値観の固有さ、その人なりの世界の捉え方を表しているように感じるのだ。
もちろん、これは私の勝手な解釈であるが。
◇◇◇
くだらない=最高?
最後に、私自身のくだらない旅の話でもして終わろうと思う。
私の母校、早稲田大学には「百キロハイク(以下、百ハイ)」という非常にくだらない(最上級に褒めている)イベントがある。
このイベントの参加者である早大生は、埼玉県にある早稲田大学附属の本庄高等学院を出発し、約2日間かけて都内にある早稲田大学早稲田キャンパスまで100km以上の道のりをひたすら歩く(時には走る)。
しかも、その多くがコスプレや仮装をしていたり、わざわざ歩きにくい縛りを自身に課して歩いている。
普通の大人からすれば、常軌を逸したくだらないイベントだと思われることだろう。
実際参加した身としても、歩いている最中も、その後振り返ってみても、実にくだらないイベントだと思う。
しかし、それが故に、最高のイベントでもあった。
いかにも意義深いというような由緒正しき行事のいくつが、今現在も記憶に残っていることだろうか。
引き換え、百ハイの時の思い出は一生涯忘れることはないだろう。
あれほど、くだらないを全力で体現した2日間は、今のところ他にない。
ともに歩いた仲間とは、いくつになってもあの時のことを笑いながら話すことができるだろうと思うと、本当に参加してよかったと思える。
くだらなく、そして楽しい旅をしようではないか。
では、また。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?