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かつて天才だった僕たちが、もう一度天才になる物語
今までに読んだ漫画で、1番好きな作品はなんですか?
こう聞かれたら、みなさんはどんな作品を思い浮かべるでしょうか。
あらゆるジャンル、テーマの作品に触れてきたので、その中からベストワンを選ぶとなると、なかなか難しいものです。
ただ、もっとも胸が熱くなって、そしてもっとも読み返した作品という風に考えると、おのずと一つに絞られます。
26歳現在、私は、松本大洋さんの『ピンポン』という漫画が大好きです。
『ピンポン』はその名の通り卓球の漫画で、いわゆるスポコン作品です。
コアなファンも多く、私のようにベストワンに選ぶ方も少なくはないのかな、とも思います。
完全に私の独断と偏見にはなりますが、この作品を一言で表すと、
"かつて天才だった青年が、努力によってもう一度天才になる物語"
です。「天才」の部分は、あるいは「ヒーロー」と読み替えてもいいです。
詳しいストーリーはぜひ原作をお読みいただくか、アニメを観て欲しいなと思いますが、私なりに一文に凝縮するとそんな感じです。
◇ ◇ ◇
ざっくりのあらすじをご紹介すると、主人公の星野(通称:ペコ)は、少年時代に数々の大会で賞を取る優秀なピンポンプレイヤーでした。
そしてペコの相棒、月本(通称:スマイル)は、そんなペコの影響で卓球を始め、彼もまた優秀なプレイヤーに成長します。
高校に進学した彼ら幼馴染は、当然、卓球部に所属します。
そんなある日、ペコは中国から日本に渡り同地区の高校に通う、これまた天才ピンポンプレイヤーのコン・ウェンガ(通称:チャイナ)と対戦をします。
そこでなんと、ペコはスコンク、つまり一点も取ることができずに負けてしまいます。
その後もペコは優秀な高校生プレイヤー達に遅れをとり、逆にスマイルは天才達から高く評価されていきます。そしてペコは、とうとう卓球を辞めてしまいます。
ここでは詳しい経緯は端折りますが、そんなペコも周囲の影響で卓球を再開し、才能にかまけて見失っていた卓球それ自体への気持ちをとりもどすのでした。
最後にどうなるのか??はぜひ原作をお読みくださいね。
◇ ◇ ◇
さて、私がこの作品から感じ取るもの、私がこの作品を推す理由は大方の意見とはちと違うかもしれません。
私が本作を好きな理由、それは「かつて天才だった頃」を思い出させてくれるからです。
と言っても本来的な意味で天才だった時代など、私には1秒たりともありません。
ここで私が「天才」あるいは「ヒーロー」と捉えているのは、我々が生きるこの世界において、自分は脇役ではなくて主役なんだという「主人公マインド」あるいは「エゴイズム」を持っている状態の人、ということになります。
幼少期、自分こそがこの世界の中心で、世界は自分の面白いと思う方へ展開していくんだと、もはや言語化すらせずともそう信じて疑っていなかった頃が、確かにありました。
みなさんにも、大なり小なり、そんな世界がキラキラに満ちた頃の記憶があるのではないでしょうか。
ジャングルジムの頂上に最もはやく登れる自分。
誰よりもお絵描きの上手い自分。
先生から褒められた自分。
確かにその時、世界の中心は自分だったのではないでしょうか。
大人になるにつれ、私たちは自我を押さえ込むようにして理性によって自分をコントロールするのがうまくなっていって、次第にコミュニティの中で、空気を読んで行動するようになります。
他者から高い評価を受けたとき、努めて冷静に、謙虚になる自分。
客観的な視点で適任者が自分でないと分かった時、そっと身を引く自分。
納得いかないことがあっても、波風を立てまいと気持ちを押し殺す自分。
それ自体は全く否定しませんし、他を立てる、空気を読むことは素敵なことです。
これが上手い人は、本当にかっこいい。
ただ、『ピンポン』をたまーに読み返すと、どうしてもかつての、最強主人公マインドを持っていた頃の自分を思い出すような、そんな感覚になります。
ペコはかつて、自分の才能を信じて疑わなかった。
しかし現実を知り、一度打ちのめされる。
そして再び、天才として、ヒーローとして起き上がる。
なんだか、これからの人生で、自分が世界の中心になっちゃうような、誰よりも輝いちゃうような瞬間が訪れるのではないか?という気分にさせてくれます。
そんな瞬間なんてなくても、平凡な日々でも満足はしています。
現実と向き合って、折り合いをつけながら生きることも、悪くない。
それでも私は、私以外の誰も知らない、理解できない、あるいは忘れ去られた小さな天才の存在、そいつの今後の再起に思いを巡らせるべく、またこの作品を読み返すことでしょう。
では、また。