アーオー、ロジャースが NFL に帰ってきたぞ(ただし半分だけ)
サム・オブ・ジ・オールド・タイムズ・ハヴ・リターンド
もっとも多くのファンとアンチを抱える男、魔法使い、フットボール少年の憧れ、投げるネット・ミーム……呼び方はいろいろあるが、いずれにしてもアーロン・ロジャース (Aaron Charles RODGERS; #8 QB) は NFL レギュラーシーズンの試合に帰ってきた。そして、ほぼ 1 試合を通してプレイをこなした。
信奉者として、その対象が復帰するほど嬉しいことはない。チームがちょっと違うけど、まあ目をつむらなければいけないものはある。去年に続いて今年もマンデーナイトフットボールに選ばれるほど待たれたイベントだ。細かいことはいいだろう。
先にボールを得たジェッツ (New York Jets) はドライヴを左右へのトスから始め、3 プレイ目の 3rd & 3 でパスを選択。
放たれたボールは弾丸のように飛ぶ!
そしてレシーバーがドロップ!
さっそくイラつくロジャース!
ターゲットはグリーンベイ (Green Bay Packers) でもチームメイトだったラザード (Allen Jamel LAZARD; #10 WR)。ボールを捕るよりもブロッキングのほうがうまい感じがする選手で、予定と違うルートの走行や落球はお手の物だ。プレイクロック (play clock) が 0 秒ギリギリになるまでスナップが出ないのもふくめて、ひと昔前が帰ってきたかのようなおなじみの光景が広がった。これが俗にいう「実家のような安心感」か。
そういえばプレイコールを入れているのも、かつてグリーンベイでオフェンシヴ・コーディネイターをやっていたナサニエル・ハケット (Nathaniel HACKETT) だ。どうりでモニタから漠然とした望郷の念みたいなものを感じると思ったよ。
2023 シーズンのロジャースはパスを 1 本も成功させないままスナップ 4 回でシーズンを終了したため、次のドライヴの最初、すなわち今季 4 回目のスナップを前方すぐ近くにいたブリース・ホール (Breece Maelik HALL; #20 HB) にトスしたのがジェットとして最初のパス成功となった。記念になるわけじゃないけど、千里の道も一歩からってね。
そして、あぁ~……そのまさに次の瞬間にはブリースは捕ったボールを見事にファンブルし、攻撃権はナイナーズ (San Francisco 49ers) に移った。やっ……。
「やっぱりこのチームはクソだな。始まる前から終わっているな」という言葉は喉元まで上がって来ていたが、しかしまだジェッツには強力なディフェンスがある。断定するにはさすがに早い。
しかもナイナーズはケガによってマキャフリー (Christian Jackson McCAFFREY; #23 "Wide Back") を欠いている。このピンチも 3 点に収まったし、まだチャンスはあるのではないか?
次のドライヴの途中の 3rd & 8 がギャレット・ウィルソン (Garrett Antonio WILSON; #17 #5 WR) への 17 ヤードのパスで解決され、最後はタッチダウンで仕上がったときにはそう思わされた。さすがに安全上の都合でロジャースが走り回りはしないが、パスそのものは十分シャープだ。
しかし頼みのディフェンスも C. J. モズリー (Clint MOSLEY Jr.; #57 LB) が傷み、ガードナー (Ahmad "Sauce" GARDNER; #1 CB) が傷みと主力に問題が生じ始めると、ラインが明らかに負けているためプレッシャーがかけられずになんともならなくなった。
ポケットの内側に立つパーディ (Brock PURDY; #13 QB) は 2022 年ドラフトの最後に指名された選手ではあるものの、NFL に指名される水準の QB たちはプレッシャーがない環境下ではほぼ間違いなく完璧なパスを投げる。これでは止まるわけがない。
おまけに、ジェッツはオフェンスのラインもしっかり負けている。ついにラインに補強が行われたとはいったい何だったのだろうか。そもそもパスがほぼラザードとウィルソンにしか投げられておらず、ラザードは WR の皮をかぶった TE であることを考えると実質的にパスを受けた WR はウィルソンひとりだけだ。
パッカーズ時代にも「ロジャースは武器を持たされていない」とさんざんいわれつづけたが、ここまで酷い状況は記憶にない。試合後の会見には「もっとうまくやれる("I can play better.")」と応じていたものの、明らかに走ることのないパサーと強くないラインと少ないレシーバーの組み合わせだから、ちょっとたかが知れている気がする。まぁ物事に絶対はないが……。
ファンとしては感涙ものの場面もあった。ジェットしての最初のタッチダウンパスは、ディフェンスのオフサイドによるフリー・プレイからのものであった。おお見よ! 遠からん者は音に聞け、近くば寄って線を跨げ! "ハード・カウントの王" の帰還だ!
ニューヨークではどうなっているか知らないが、グリーンベイではオフサイドが生じたとき、レシーバーは基本的にアサインメントを放棄してまっすぐディープに突っ込む決まりになっていたように思う。彼はオフサイドを狙って起こすから捕るほうもそれにあらかじめそなえているわけで、このパスを受けたのがラザードであったのも偶然ではないかもしれない。
そんなわけで、まだ刃に切れ味はある。問題はそれを振り回せる状態になるかどうかだ。もしそうなれば、2010 シーズン以来の出来事も現実になるだろう。