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【NFL】溺れる者は藁でも文鎮でもつかむってそりゃ

ワイル・リスニング・トゥ・サンクユー・フォア・ヨー・アテンション

遅れたけど今週の試合を振り返っておこう。

フロリダ州の東海岸はジャクソンヴィル、ジャグヮーズ (Jacksonville Jaguars) の本拠地エヴァーバンク (Everbank Stadium) に乗り込む遠征になった。
最寄りの空港まで飛行機で 5~6 時間くらいながら、時差が 1 時間でジェット・ラグの心配がほぼないのでそこまで厳しい旅程ではない。
どっちかというと、ロンドンを往復しているジャクソンヴィルのほうが大変だったかもしれない(彼らの第 6 週はトッテナム・ホットスパー (Tottenham Hotspur Stadium)、第 7 週はウェンブリー (Wembley Stadium) での試合だった)。

スコアはこれだ。

試合前のコイントスはグリーンベイ (Green Bay Packers) が勝って前半のボールを選択。現地の天候は晴れ、気温は 82°F (およそ 28°C) と夏のような暖かさでございます。熱中症と脳震盪のうしんとうにお気をつけて行ってらっしゃいませ。

パッカーズ先発のジョーダン・ラヴ (Jordan Alexander LOVE; #10 QB) は今季ここまでパス成功率 62% という低めの数字にふさわしくインターセプションを 8 個と量産する一方、先発した 5 試合すべてで複数のタッチダウン・パスを記録。高いレベルで不安定に安定したパフォーマンスを披露している。
われわれはロジャース (Aaron Charles RODGERS; #8 QB) の後釜を欲していたが、どうもその一代前のあいつの後釜のような気がしてきた。後輩イビリと公金の横領はやめとけよ。

パッカーズのオフェンス陣の陣容はいまのところ最善に近く、かなり安定したラインと強力な TE にいろいろこなせる WR たちと馬車馬 RB まで揃っていて文句がない。
対してジャクソンヴィルは 3 週目のバファロー (Buffalo Bills) 戦で木っ端微塵になったところに象徴されるように、守備の成績が壊滅している。理由は統制がとれていないとも、スキームと個々人の問題の両方ともいわれているが、まぁ何にしても対戦する側としては都合がいい。溺れた犬は棒で叩かれるのがこの世界の掟だ。ゴー・パック・ゴー!

ところが先に水に落ちたのはラヴのほうで、走りながら軽くジャンプしてパスを投げたら下半身が痛んだ。観ていたときにはすわまたひざかと思ったが、股関グローイン (groin) だという。それはそれで困る。競技によってはむしろ膝より影響がある部位だ。
次のドライヴも出たがスリー・アンド・アウト。さらにその次のドライヴはレッド・ゾーンまで進みながらも、サイドラインに向けて長いパスを投じるとジャーリアン・ジョーンズ (Jarrian JONES; #22 CB) がターゲットの前に鋭く切り込んでインターセプション。あー……パーキンソン病にも気をつけろな。

もっとも、捕られたのはジャグヮーズ陣 5 ヤード地点と攻撃を始めるには苦しい場所であったのが幸いで、こちらもどこにほうっているのか怪しいことが多いローレンス (William Trevor LAWRENCE; #16 QB) のパスは、たちまちマキニー (Xavier Avis McKINNEY; #29 S) へのインターセプションに化けてしまった。またお前か。
これが反則にも助けられてタッチダウンにつながり、まず 7 点。さらに、右に走りながら左に投げる冴えたパスがクラフト (Tucker KRAFT; #85 TE) につながって 67 ヤードを稼げばもう一方的な展開だ。……と思ったら、残りのわずか 9 ヤードが進まない。やっぱりロジャースの後継者なのかもしれない。脚も痛そうだし。

結局このチャンスがフィールド・ゴールに終わると、それまで完封されていたローレンスが急に思い出したように長短パスを通してレッド・ゾーンに突入。最後は 6 ヤードを自分で持って走ってタッチダウン。前半残りわずか 54 秒のドライヴもフィールド・ゴールにまとめるとスコアはグリーンベイの 13–10。出だしの内容を思えば点差がなさすぎる、居心地の悪い試合になった。そりゃ美辞麗句もうっかり中継に乗ろうというものだ。


不穏な空気は後半すぐのドライヴで可視化され、パスを投げ終えたラヴを DE が後ろからほんのちょっと小突いたら彼の下半身は限界を迎えた。アウトである。ただ、自力で立っていたのでそこまでの重傷ではなさそうに思われた。
ということは、もしももっとハードなヒットだったらもっと大変なことになっていたかもしれないわけで、この点では幸運だったか。

ロジャースが投げていたころのグリーンベイでは、このような事態になると雰囲気はもういきなり敗勢であった。攻撃が進まないので冗談抜きで客席が静かになり、なぜか守備陣まで監視の目のなくなった小学校の自習時間のようにでたらめになるのである。
……しかし、今日こんにちに限ってはそういうことはない。だって、マリーク (Malik Antonio WILLIS; #2 QB) がいるからね。この男はラヴが欠席している間の試合を連勝に導いたバックアップで、僕のお気に入りのひとりだ。

センターの後ろを引き継いだウィリスは、逆転された直後のドライヴをラッシュを多用しながら慎重に行進。まだまだ先は長く思われた敵陣 38 ヤードからジェイコブス (Joshua Cordell JACOBS; #8 HB) が残りを一気に走り抜けて逆転すると、さらに直後、ローレンスに迫ったエッジリン・クーパー (Edgerrin Cooper; #56 LB) がボールを殴り飛ばしてジャクソンヴィルのエンドゾーン寸前で強奪。

新人のキンボシ・オオキイに球場が盛り上がるさなか、プレイアクションからキャッチボールめいたパスがクラフトに投じられると余裕のタッチダウン。やっぱりナショナル・タイトエンズ・デイだからな。欠かすわけにはいかないよな。

相手を煽りながらエンドゾーンに入っていくのはレシーヴァーたちの好物のひとつだ

というかみんなそろそろ勘付いていそうだが、器用で巨大な WR と TE を抱えているこのオフェンスの構成は、じつはラッシュをメインにするほうが向いてるな。今季のジャクソンヴィルのディフェンスがまともにラッシュを封じ込めたのはマイアミ (Miami Dolphins) とニュー・イングランド (New England Patriots) くらいなので、よけいに有効だった。
でもまぁ、パスのほうが爆発力あるから使ってしまうんだけど。

4Q も残り 10 分を切ったところで 10 点差。このゲームはここからが大変だ。逃げる側は大きいミスを避けるため攻守に消極的な動きになりがちな一方、追う側はダメでもともとなので気楽に一か八かの勝負手を連発できる。それがうまく運んだときには「なんでそれがさっきまでできなかったのさ?」と訊きたくなるけど、まあ、てしてそういうものだ。

この試合ではジャクソンヴィルに良い目が出た。グリーンベイのオフェンスが時間を潰せずもたついている間に、2 回のドライヴあわせて 6 分あまりで見事に 10 点。ディフェンダーに囲まれながらも大きくジャンプして捕球したイングラム (Evan Michael ENGRAM; #17 TE) は大きな見せ場になった。PAT も決まって試合は同点だ。

残り時間は 108 秒。タイムアウトは残り 2 回。自陣 30 ヤード。直前の 2 回のドライヴはいずれもパントに終わっていて……じゃあ、もう 1 クォーター追加か。しんどいなぁ。さっきまで勝勢だっただけに、よけいに。

モニタの前のわれわれを救ったのは、ここまでほとんど目立たず息をひそめていたリード (Jayden Kevon REED; #11 WR) だった。ラインの右側からブロックするふりをしつつディフェンスラインの後ろを左にすり抜けると、もう誰もついていない。完璧なコールだ。
勝負を決定づける 51 ヤードのパスが通り、グリーンベイに来てからまだ失敗のないマクマナス (Brandon Tyler McMANUS; #17 K) がウォーク・オフ・フィールド・ゴールに仕上げて接戦にようやくけりがついた。やれやれ、きもが冷えた。

ええ、ええ。このチームはドラフトで獲った 40 ヤードを超える距離になると入らないキッカーを諦め、より悪いキッカーをウェイヴァーで呼び、それも諦めると性的暴行容疑が取り沙汰されたキッカーを据えた。ああ情けない。ここまでやるからには、少なくとも勝たなければいけない。
しかしどうだろう。先に述べたようにパッカーズはほぼ最善の陣容でありながら、メンバーを欠きまくっているジャクソンヴィルに大苦戦したのだ。これはもう、なんとも、まぁ……。


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