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【裏話】新刊『問いかけの作法』に凝らした3つの工夫

新刊『問いかけの作法:チームの魅力と才能を引き出す技術』が12月23日に発売され、早速全国の書店で並んでいます。

青山ブックセンター本店では、安斎の選書フェアを開催いただいていてます。

ありがたいことに発売前の予約段階から重版がかかり、現在1万4千部となっています。※2024年現在は3万6千部

発売のタイミングで単行本・電子版が揃っているだけでなく、Amazonではオーディオブックも展開されています。オーディオブックのランキングで3位に入るなど、好評いただいています。移動中に耳から学びたい方などは、こちらもおすすめです!(30日間無料体験できるようです)

SNSではすでに読み進めている方もちらほら。年末年始に読み進めるという方もいらっしゃると思うので、裏話的にこの本を書く上で意識していた3つの工夫についてまとめておきたいと思います。

工夫(1)知識の"体系化"と"断片化"の両立

これまでの書籍『問いのデザイン』などは、なるべく知識を体系的にまとめることを意識して書いてきました。体系的とは、全体の知が個別的にならずに、ひとつの理論的な枠組みの中に系統的に配置され、知識と知識が結びついている状態です。

他方で、体系的に書かれた書籍は、一般的に、読者にとって「読みにくい」「本腰を入れて読まなくてはならない」「すべてを理解しないと実践できない」と感じさせる側面もあります。実際に、私のこれまでの書籍は、Amazonのレビューで度々「論文のようだ」と批判されることがありました。(学術論文よりは遥かに読みやすいと思うのだけど..苦笑)

そこで、新刊『問いかけの作法』では、表面的にはなるべく知識を断片化させ、読みやすく、実践しやすい形式を心がけました。

なるべくパッと開いたページ見開きの中に、実践可能な"一粒の知"を完結させることで、仮に前半の基本編(1〜2章)で読むのをやめたとしても、仮に4章だけパラパラ読むだけでも、つまみ食いでも何かしら「役に立つ知識」を持ち帰ることができるように構成しました。体裁も縦書きで改行を多くし、具体例を多くすることでスラスラ読めるように工夫しています。

書きながら「そんなに単純化できるものではない」「簡単に類型化してしまうことで、大切なエッセンスが削ぎ落とされる」という研究者としての自分からの「心の声」が何度も浮かび上がりましたが、思い切ってそうした考えは封印して、「結局、使えなければ知識に価値はない」と言い聞かせて、実務家の目線で書きました。

しかしながら、ノウハウを箇条書き的に並べるだけならば、一般的なビジネス書と変わりありません。知を断片化させながらも、全体の体系性は損なわないように意識すること。このジレンマが、なかなか執筆の難易度をあげていました。

何度書き直しても、どちらかのバランスが崩れてしまう…。そんな試行錯誤を経て、最終的に問いかけの意義を「組織の過渡期」に位置付けて、「こだわり⇄とらわれ」「フカボリ⇄ユサブリ」というシンプルな軸を全体に走らせることで、系統性を増すことができました。書籍には掲載していませんが、以下のような見取り図を常に頭の中に持ちながら執筆することで、知の体系化と断片化を両立させられたように思います。

書籍『問いかけの作法』の執筆の見取り図

この努力のおかげで"鳥の目"を持ったエキスパートが全体をしっかり読み込んでも、初心者が"虫の目"でパーツをつまみ食いで読んでも、どちらの読み方でも面白く価値がある本になったのではないかと自負しています💪

工夫(2)ハイコンテクストな専門知のローコンテクスト化

一つ目の工夫にも通ずるのですが、今回の執筆のもう一つのテーマはハイコンテクストな専門知を、なるべくローコンテクストな一般知に落とし込むことでした。

私は研究者でもあるので、基本的には"専門家"として本を書いています。それゆえ、これまでの著作は『ワークショップデザイン論』『リサーチ・ドリブン・イノベーション』など、理論的背景のある固有名詞を活用しながら、専門性の高い実用書を編んできました。

こうした書籍は、理論的な知識を必要としている読者や、問題の解像度が高い"玄人"には高い価値がありますが、知識がハイコンテクストなままでは、これらの知識を本当に必要としている多くの人には届かない、という葛藤がありました。

たとえば「両利きの経営(知の深化と探索)の実現に向けて、問いを起点としたリサーチ・ドリブン・イノベーションを推進するために、ワークショップデザインを活用しよう!」などといっても、一部の人を除けばなんのことだかわからないですよねw

そこで、対象とする問題と処方箋をなるべくローコンテクスト化したのが、今回の『問いかけの作法』のもうひとつの工夫です。

多くの人に届いている"ベストセラー書籍"を分析してみると、結局のところ、人と組織の悩みとは、

  • 人間関係の悩みをいかに解消するか

  • どうすれば上手にコミュニケーションできるか

  • いかにして他人を動かすか

…といった根源的な欲求に集約されるのではないか、というインサイトがありました。

こうした人類普遍のローコンテクストな悩みと、現代特有のハイコンテクストな組織課題の軸を一致させながら、専門的な理論知を、なるべく一般的な実践知に変換するにはどうすればいいか。

そのような思考の経緯から"職場のお通夜ミーティングを脱却する問いかけの作法"に行き着いたのです。

したがって、多くの読者はこの本を「どうすれば空気の悪い会議で、もっと意見が引き出せるだろうか」という、ローコンテクストな悩みの解決テクニックとして読むでしょう。

しかしこの本をもう一度読み直してみると、また違った景色が見えてきて、組織を捉える解像度がもう一段深まる。そんなふうに、二度三度読み直す過程で、螺旋的にコンテクストの理解が高まっていくこと。複雑な課題を解決するための専門知に誘うこと。それが本書の真のねらいだったのです。

『問いかけの作法』のコンテクストの螺旋

途中途中に理論的なコラムを挿入しているのは、その理解に足場かけするためのものでもあります。一度目は読み飛ばして構いませんが、二度目に読むときはコラムにも目を通してもらえると、読解のスパイラルアップを体験していただけるはずです。

工夫(3)デジタルコンテンツによる補完

最後に。今回の本はこれまで以上にウェブメディアやデジタルコンテンツとの連携を意識しました。

公式ウェブサイトをMIMIGURIで制作(吉野・永井が担当)して、関連コンテンツや資料をアップロードしています。特に基本編の内容をスライドで解説したPDFデータが大変好評で、多くダウンロードいただいています。以下のページの下部の「ダウンロード資料」からぜひご参照ください。

また、実はこの本は初稿の段階では480ページを超える分厚いものでした。内容を厳選して執筆したにも関わらず、縦書きで行間を空け読みやすくしたこともあって、予想よりもボリュームがアップしてしまったのです。けれども500ページ近い本は、本書の意図だった「読みやすく、実践しやすい形式」に反しています。

そこで、本文では400ページまでなんとか内容を圧縮して、その代わりに削った分の未公開原稿を、読者特典でダウンロード可能にしたのです。本を買われた方は、巻末にダウンロードURLとパスワードが記載されています。

特に特典に「ミーティングプロセスの組み立て方」は最後まで「本文にどうにか入れられないか」と悩みながらも泣く泣く特典のほうに掲載した内容なので、ぜひお読みください!


以上、新刊『問いかけの作法』の執筆にあたって工夫していた3つのポイントをご紹介しました。ぜひそんな裏話的な意図も頭に入れながら、お読みいただけると嬉しいです!前著『問いのデザイン』もぜひ一緒に。





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