見出し画像

今日の絵本01:『はなを くんくん』ルース・クラウス/マーク・サイモント

モノクロームの世界に鮮やかに咲いた春

はなをくんくん

暗く寒い冬です。深い雪に閉ざされた山のなか、動物たちは静かな眠りについています。のねずみも、くまも、ちっちゃなかたつむりも、りすも、やまねずみも――寒さをしのぐように、あるものは地面のなかで、あるものは木のうろで、息をひそめて眠っています。

おや? みんなが目を覚ましました。鼻をくんくんさせながら、一斉に駆け出します。そしてみんなが集まったところで見つけたものは――。

* * *

物語は静かに幕を開けます。
コンテのあたたかなタッチで描かれたモノクロの画面が、厳しい寒さをひしひしと伝えてくれます。雪はあたり一帯のすべての音を吸い込みながら、あとからあとから降り積もっていく――。見ているこちらまで息をひそめてしまうほどの、静かな静かな始まりです。

様相が一変するのは10ページ目まで進んでから。深い眠りについていた動物たちが、突然目を覚まし、一斉に外に飛び出すのです。あたりはまだ冷たい雪に覆われているというのに、動物たちはどこか一点を目指して、わき目もふらず駆け抜けていく。そうしてある一点でみんな止まると、今度は突然はじけるように笑いだすのです。一体そこに何が――?

そこにあったのは、小さな春の兆しでした。全編を通してモノクロで描かれて来たこの絵本のなかで唯一、“春”だけが色づいています。そのなんと鮮烈なことか。動物たちが“春”をどれほど待ちこがれているのか、“春”がどんなに明るく素敵なものなのか、そのことが、この小さな兆しだけで痛いほどに伝わってきます。踊りだすほどにうれしそうな動物たちの様子に、読んでいるこちらまでとてもうれしく明るい気持ちになってしまう絵本です。

モノクロと春の色づきという対比も鮮やかながら、「静」と「動」の対比も素晴らしい。一斉に目を覚ました動物たちは、右へ右へとひたすら駆け抜けていきます。ページをめくる方向と同じくして動いていく動物たちの姿は躍動感にあふれ、次第にその数が増えていくことでダイナミズムも生み出している。ある意味「絵巻的」な感じのする画面です。

文章はごく少なく、お話もきわめてシンプルなので、2歳ごろから楽しめそう。まもなく春がやってくる、そんな季節の変わり目に、読んであげたい絵本です。

オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母------------------> ★★★
4歳6カ月児-----> ★★☆

※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。

『はなを くんくん』

▽ルース・クラウス(文) マーク・サイモント(絵) きじま はじめ(訳)/福音館書店(1967/03/20 原著“THE HAPPY DAY”は1949米)/印刷:康陽印刷/製本:多田製本
▽かな/31ページ/31×22cm
▽ 表4に記載の対象年齢:読んであげるなら3才から じぶんで読むなら 小学校初級むき
▽厚生省中央児童福祉審議会推薦/全国学校図書館協議会選定/日本図書館協会選定/大阪市立中央図書館選定

ルース・クラウス(Ruth Krauss)プロフィール:アメリカ、ボルティモアに生まれ、ピーボディ芸術学院で絵と音楽を学び、その後、ニューヨークのパーソンスクール応用美術科を卒業。ロンドンをはじめ、アメリカ大西洋岸のまちまちを移り住んだ後、夫クロケット・ジョンソン(児童書の作家・画家として活躍)とともにコネティカット州ローウェイトンに住んだ。20冊以上もの児童書を書いている彼女は“A VERY SPECIAL HOUSE”をはじめすぐれた作品が多く、“すばらしい創造力にめぐまれており、子どもの実生活からにじみでてくる焦点をたえず見いだそうとしている”と高く評価されている。

マーク・サイモント(Marc Simont)プロフィール:1915年パリ生まれ。パリ、バルセロナ、ニューヨークなどで教育を受けたが、本格的に絵の勉強を始めたのはパリだった。その後フレスコ画も学び、ニューヨークに出てデザインアカデミーで勉強。3年ほどの軍隊生活の後、教師、肖像画家、さしえ画家、ビルディングの壁画家として働いた。ワシントンの国会図書館の壁画も彼の手になるもの。児童書のさしえでは1951年に創作“POLLY'S OATS”を出して作家として認められ、1957年に絵本“A TREE IS NICE”でコールデコット賞を受賞した。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?