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今日の絵本08:『ぶたぶたくんのおかいもの』土方久功

正直言って、ぶたぶたくんは可愛くない。……が。

08_ぶたぶたくんのおかいもの

ある日、ぶたぶたくんはお母さんに一人でお買い物に行くよう頼まれました。
「ぼく ひとりで いけるよね。なんども おかあさんと いって しってるものね」
お買い物ができたら、お菓子屋さんに寄って好きな物を買っていいと言われ、ぶたぶたくんは大喜び。お母さんはぶたぶたくんの首に黄色いリボンを結んでくれました。お買い物かごを持って、さあ出発です。

* * *

正直言って、ぶたぶたくんは可愛くない。それどころか、買い物の途中で出会って行動をともにするカラスのかあこちゃんやこぐまくんも、 お買い物で立ち寄るお店の人たちも、誰一人として見た目に可愛い登場人物など出てこないんです、この絵本。本作が出版されたのは1970年ですが、作者の土方久功さんは1900年生まれ。出版当時、すでに70歳のご高齢でした。そんな背景からでしょうか、絵の古さは否めません。

ところが、ちょっと不気味とすら思えてしまうこの「ぶたぶたくん」が、読み進めているうちに愛嬌たっぷりの可愛らしい子ぶたちゃんに見えてくるのだから、絵本というのはつくづく不思議です。なにせ設定がたまりません。「ぶたぶたくん」は本名じゃないと言うのです。歩く時もそうでない時も、よく大きな声や小さな声で「ぶたぶた ぶたぶた」と言う癖があるから、いつの間にか皆に「ぶたぶたくん」と呼ばれるようになってしまい、お母さんまでが自分でつけてやった名前を忘れてしまって(!)、「ぶたぶたくん」と呼ぶ。だから、「ほかの なまえは なくなってしまったのさ。」……って、いいんですかお母さんそれで。このイントロで心をガッチリ鷲づかみです。

内容は、つまるところ「はじめてのおつかい」。幼い子どもが生まれて初めて、たった一人のお買い物に出かける。ちょっとした冒険にドキドキしたり、喜んだりする子どもたちの姿が無邪気に描かれます。

お買い物をする3つのお店それぞれが、とっても個性的。最初に立ち寄るのはパン屋さん。ここでぶたぶたくんは、かおつきぱんを一つ買います。「かおつきぱん」にはその名の通り顔がついているのですが、これがまたちっとも可愛くない! シュールなことこのうえありません。このお店のおじいさんは、いつもにこにこしている「にこにこおじさん」。

次なる八百屋さんでは「早口お姉さん」が出てきます。お姉さんはぶたぶたくんを見るなり早口でまくしたてます。……ここは読み聞かせの腕の見せ所。噛んでしまったら台無しですよ。子どもに読み聞かせる前に、こっそり練習しておいたほうがいいかもしれません。

最後のお菓子屋のおばあさんは、さてどんなおばあさんでしょう? それは読んでのお楽しみ。

道を歩く間、ぶたぶたくんたちが口ずさむリズミカルな歌といい、それぞれのお店でのやり取りといい、なんとも読み聞かせのしがいがある絵本なのです。

さて、買い物が無事に終われば絵本もおしまいかな……と思いきや、ただでは終わりません。一番最後の見開きに、ぶたぶたくんの歩いた道の地図が現れるのです。お山やお池、ヘリコプターなどいろいろ描き込まれたその地図を見てページをさかのぼってみれば、ちゃあんと背景にそれらのものが描かれている。なんという芸の細かさ、なんというサービス精神。これは子どもたちがこの絵本に夢中になるのも無理はないなと、思わず納得です。

わが家の息子は最初、表紙にドーンと描かれたぶたぶたくんを見て怖がったのです。けれど一度読んであげたら、もう夢中。お買い物のシーンが楽しいのはもちろんのこと、地図好きの彼には最後の見開きがツボだったモヨウ。読み終えた後にスケッチブックを出してきて、ぶたぶたくんの地図をクレヨンで一生懸命描いていたほどにハマッておりました。

文章は少し多いですね。見開きの片ページが丸ごと文章だったりしますから。3歳半前後くらいから楽しめそうです。

※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。

オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母------------------> ★★☆
3歳10カ月男児-> ★★★

『ぶたぶたくんのおかいもの』
▽土方久功(作)/福音館書店<こどものとも>傑作集 (1970/10/01)
▽読んであげるなら3才〜自分で読むなら小学校初級むき

↑紀伊國屋書店ウェブストアは在庫あり

▼関連情報
▽土方久功(ひじかた・ひさかつ)プロフィール:1900年、東京生まれ。1924年、東京美術学校彫刻科卒業。1929年に南洋パラオ島へ渡り、さらに1931年にヤップ離島のサトワヌ島へ渡って、原住民と生活を共にしながら、彫刻の制作と島の民俗学的な研究を行なった。戦後は1951年から数回個展を開催し、毎年新樹会展に出品。民俗学の研究家としても知られている。1977年没。

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