今日の絵本10:『やっぱりおおかみ』佐々木マキ
愉快な人生を送るコツ
おおかみは もう いないと
みんな おもっていますが
ほんとうは いっぴきだけ
いきのこって いたのです。
こどもの おおかみでした。
ひとりぽっちの おおかみは
なかまを さがして
まいにち うろついています。
どこかに だれか いないかな
* * *
衝撃でした。
すごい絵本でした。
『やっぱりおおかみ』は佐々木マキさんの絵本代表作。「おすすめ絵本ガイド」みたいな企画では必ずと言っていいほど見かける作品です。……がしかし、なぜでしょう。なんとなくわたしは、この絵本はイロモノっぽいのかなと、いままで手に取ることをしてこなかったのです。
主人公のオオカミは真っ黒なシルエットで描かれます。彼の決め台詞は「け」。馬鹿にするように悪態をつくようにつまらなそうにそっぽを向きながら「け」と言うオオカミの絵を、何かに載っているのを何度か見ました。その1カットだけを見ていたからかもしれません。なんとなくそれで、わかった気になってしまっていたのかも。
つくづく、先入観ほどあてにならないものはありません。
オオカミはひとりぽっちでした。街にはうさぎも、やぎも、ブタもいるのに、幽霊でさえ大勢の仲間とにぎやかに過ごしているのに、オオカミにだけは誰も仲間がいませんでした。
ほかの動物たちはみんな、オオカミの姿を見ると逃げて行きます。真っ黒なシルエットで描かれる恐ろしいオオカミは、みんなから徹底して疎まれる存在なのです。そして逃げゆく彼らに向けられるオオカミの「け」は、心のなかの淋しい思いを打ち消そうとする強がりの「け」。馬鹿にしているのでも悪態をついているのでもない、淋しくて崩れそうになる自分に「がんばれ!」と言い聞かせる「け」なのでした。
「みんな なかまが いるから いいな」
オオカミは思います。けれども、うさぎの仲間になるのなんかはごめんなのです。意に染まないものに迎合するはイヤだ、ましてや自分のことを悪者だと決めつけてかかっているようなヤツらになんか。
やがてオオカミは悟ります。自分は「やっぱり おおかみ」なのだということを。たとえ仲間がいなくても、自分として生きるしかないのだということを。
周囲からどんなに浮き立ってしまったとしても、自分の個性に誇りを持ち、まごうことなき自分を生きていくことへの自信と清々しさ。自分自身をまっとうすることこそが、愉快な人生を送るコツなのだということを、この絵本は伝えてくれます。
「やっぱり おおかみ」。このフレーズ、これからのわたしの「おまじない」になってくれそうです。
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さて、漫画界から絵本の世界へ飛び込んだ佐々木マキさんの絵は、やはりコミカル。画面にはなんともいえないユーモアがあふれており、見ているだけで愉快な気持ちになってきます。子どもにはその雰囲気がたまらないみたい。わが家の息子は街に描かれた大勢の動物たちの姿を一つひとつ追っては、「なんていってるの?」と楽しそうに眺めています。愉快な画面だからこそ、ふと感じさせるオオカミの淋しさが際立つんですよね。必要最小限に抑えられた文章も素晴らしい。冗長になることなく、大切なメッセージをストンと読者の胸に落としてくれます。
読み聞かせは3歳ごろから。「自分って何だろう」と悩む中高生、そして大人にもぜひ読んでほしい絵本です。
※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。
▼オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母------------------> ★★★
4歳6カ月男児--> ★★☆
▼『やっぱりおおかみ』
▽ ささき まき(作・絵)/福音館書店(1973/10/01こどものとも 1977/04/01こどものとも傑作集として再刊)/印刷:精興社/製本:清美堂
▽ かな/32ページ/27×20cm
▼ 佐々木マキ(ささき・まき)プロフィール:1946年、神戸市生まれ。本名、長谷川俊彦。京都市立美術大学中退。マンガ家、イラストレーター、絵本作家。京都在住。68年、漫画雑誌「ガロ」でデビュー後、「朝日ジャーナル」などにマンガ作品を発表。 小説家・村上春樹氏の初期のカバ−装画で知られる。