今日の絵本05:『しずくのぼうけん』マリア・テルリコフスカ/ボフダン・ブテンコ
楽しいお話を通して「水の循環」が見える
ある日、村のおばさんのバケツから飛び出した一滴の水が、一人ぼっちで旅に出た。水たまりから蒸発して雲の上、雲の上から雨となってまた地面へ。岩の間で氷になったと思ったら、ころころ転がり小川のなかへ。そしてとうとう、しずくは水道取水管につかまった――。さまざまなものに姿を変えて旅をしていく、しずくの冒険の物語。
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水は、地球をめぐっている。空にもくもく浮かぶ雲も、降りしきる雨も、海や川の水も、そして蛇口をひねれば出てくる水道の水も。どれも同じ水が、いる場所とその姿を変えて循環しているものなんだ――。
一滴のしずくの旅の道程をたどれば、こんなにも波乱に満ちた、ワクワクする冒険物語になるんですね。水が循環しているんだということ、気体・液体・固体ではその体積が変わるのだということが、物語にのせてすんなり理解できる。楽しい物語絵本であると同時に、すぐれた科学絵本にもなっている作品です。
ペンでくっきり輪郭を取られた漫画的なイラストレーションを描いているのは、ポーランドの作家。出版から50年以上を経てもまったく古びず、魅力的です。くるくる変わるしずくの表情がかわいらしい。シンプルで背景をあまり描き込まず、必要なものだけを描いていくスタイルで、次々と変わっていくしずくの境遇をわかりやすく表現しています。
文章はすべて描き文字。これを手がけたのは『ぐるんぱのようちえん』でおなじみ、グラフィックデザイナーの堀内誠一さん。画家のペンにすんなり溶け込むタッチで文字を描く技量は、いくつもの画風を使い分ける堀内さんならではで、さすがです。手描きの文字が、画面をいっそう、あたたかなものにしています。
うちだ りさこ(内田莉莎子)さんの訳文はリズミカル。七五調を基調に歌うように読ませてくれて、しずくの旅を楽しく演出しています。
文、絵、描き文字、訳、すべてが調和して仕上がった名作。外で遊べない雨の日も、しずくの冒険に思いを馳せながらこの絵本を読めば、楽しく過ごせそう。物語としておもしろいので、読み聞かせなら3、4歳くらいから喜ぶかな? わが家の3歳8カ月児は、黒々とした雲の上にたくさんのしずくがビッシリとのっている場面がお気に入り。内容がしっかりと理解できる小学生になってからも読んであげたい一冊です。
※「今日の絵本」は、家で過ごす時間のために、ずいぶん昔に書いていた絵本ブログから、おすすめ絵本のレビューをランダムに紹介する記事です。リアルタイムに執筆した文章ではありません。ほんのちょっとでも、なにかのお役に立てれば幸いです。
▼オススメ度(読み聞かせ当時の記録です)
母------------------> ★★☆
3歳8カ月男児--> ★★☆
▼『しずくのぼうけん』
▽マリア・テルリコフスカ(作) ボフダン・ブテンコ(絵) うちだ りさこ(内田莉莎子・訳)/福音館書店〈世界傑作絵本シリーズ〉
(1965原著出版->1969/08/10日本語版出版)