ニットのお洗濯のこと/アランニット制作日記 2月前編
今年は閏年で、2月がいつもより1日長くなる。2月が終わりを迎える日、ニットのお手入れについて教わるべく、ゆきさんの自宅を訪ねた。
「ニットをどう洗っていいか、悩んでる人は多いんじゃないかと思うんです」。出迎えてくれたゆきさんは、お茶をグラスに注ぎながらそう話してくれた。「でも、全然お伝えできるタイミングがなかったから、この機会に、ニットの洗い方をお知らせできたらと思います」
クローゼットから取り出したのは、2014-15年に制作した“記憶の中のセーター”だ。前回の日記で触れた、アラン諸島で受け取ったイメージをもとに作った一着である。
「まず、ぬるま湯を溜めます」。温度を手で確かめながら、洗面台にお湯を張る。洗面台が狭ければ、浴槽でもタライでも、どこでも構わない。問題なのは温度だ。
「温度変化があると、ウールにストレスがかかるので、なるべく負荷がかからないように。熱湯や冷水はダメです。お風呂の温度でも熱過ぎるから、温水プールぐらいの温度が目安かな」
お湯を張り終えたところで、洗剤を手に取ると、「ここです!」とゆきさんが声をあげる。「洗剤を入れるとき、ニットの上にかけるのは、ダメです! 直接かけちゃうと、そこだけ色が抜けたり、シミになってしまう原因になるので、ニットをつける前に、洗剤をぬるま湯に混ぜてください」
ニットを洗うには、エマールやアクロンなど、中性洗剤を使う。洗剤を溶かし終えると、大物用の洗濯ネットを取り出し、裏返したニットを洗濯ネットに入れてゆく。ウールが擦れると、毛羽がくっつき、フェルトになってしまう。手洗いといえど、なるべく摩擦が起きないように、万全を期して洗濯ネットを利用するのがおすすめだという。
洗濯ネットはタオル用の大きなサイズがおすすめです ニットは裏返して入れてください
半分のサイズに畳んで、洗濯ネットに入れる。そうしてぬるま湯にひたすと、手で優しく押し洗いする。「押し洗い」と言っても、押さえつけるように強く押すのではなく、しずかに気泡が浮かんでくるように、手のひらでそっと押す。その様子を眺めていると、動物を洗っているようにも見えてくる。
「たしかにそうですね、動物を洗うくらいの気持ちで、優しくしてあげてください」とゆきさん。「ウールももともと動物の毛だから、お湯も一定の温度でお願いしたいです。ウールは水を弾くので、最初はやさしく押して、沈ませる感じですね」
手際を見ていると、「洗う」というより、ゆっくりぬるま湯に沈ませるくらいの感覚だ。そっとニットを押すと、気泡が出てくる。こうして気泡が移動しているだけで、水流が生まれており、洗剤で繊維を洗えているのだという。
最初は水を弾いてなかなか沈みませんが、ゆっくり優しく押してあげてください。つい綺麗に洗おうと揉みたくなりますが、我慢してやさしく押す!
「“記憶の中のセーター”のように、後染めをした製品はどうしても染料が流れ出るので、あんまり長くつけ過ぎないほうがよいと思います」
全体をひとしきり押すと、お湯がピンク色に染まってゆく。「洗剤を使うと、どうしてもこうした余剰な染料が出てきます。他の服を一緒に洗うと色が移ってしまうから、かならず単体洗いをしてください」とゆきさんは言う。
「特に最近のアランニットのシリーズは2回染めているので、染料も2倍なんです。なので、洗い過ぎると色落ちしちゃうので、1分から2分くらい軽く押し洗いしたら、水を切ります」
押し洗いを始めて1分半ほどで、ゆきさんは手を止めて、洗面台の栓を抜く。
水の色が染料で薄いピンク色に変化。後染め製品は染料がどうしても出てしまうため、色を出し尽くそうとせず、そっと洗ってください
ニットの洗濯は、時間との勝負だ。洗濯機に慣れてしまっていると、つい「これで洗えているのだろうか?」と不安になってしまうけれど、ニットにストレスを与えないように手早く、しかし丁寧に洗うのがコツだ。
洗い終えると、次はすすぎだ。上手にすすぐために、まずは手短に脱水するのがおすすめだとゆきさんは教えてくれた。洗濯機に入れて、脱水モードにしてスタートボタンを押す。洗濯槽が強く回転し始めて、10秒弱で停止ボタンを押す。脱水というよりも、軽く水を切る程度。
そのあいだに、ふたたび洗面台にぬるま湯を張っておき、ここでもニットに負荷がかからないように、静かにニットをぬるま湯になじませる。
さっきに比べると、洗剤の泡があまり目立たなくなり、染料もあまり流れでなくなった。1分ちょっと押し洗いをすると、再び脱水する。これを何度か繰り返す。ここで注意が必要なのは、何を目安にすすぎを完了させるか、だ。
「洗剤の泡立ちがなくなるまですすいでください。これは薄い染めなので、すすいでいるうちに色が出なくなってきましたよね。でも、色が濃いニットだと、色が出続けますが気にしないでください。それよりも、洗剤の泡が立っていないかどうか。すすぎ残しがあると、変色の原因になるから、しっかりすすいで欲しいです」
洗剤の泡立ちがなくなり、水の色も透明に変わりました すすぎは少なくともたっぷりの水の中で、2回は行うのがおすすめです
しっかりと、でも、繊細に。すすぎを終えると、洗面台の栓を抜く。やさしく、やさしく。そうつぶやきながら、ゆきさんはニットを手のひらで軽く押して、水を切ってゆく。
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【アランニット制作日記 2月後編】 へ続く
words by 橋本倫史
NEW VINTAGEシリーズのお洗濯・お手入れ方法についてはこちらもぜひご一読ください お取扱いについてご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせくださいね
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