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アランニット制作日記2019-20

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ヴィンテージ素材に箔と染めを施すことで、古着を新しく生まれ変わらせる「NEW VINTAGE(ニュー ヴィンテージ)」。 白い無垢なアランニットがどのように変化していくか、ライタ…
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#ファッション

粉雪が降り積もる季節を想像しながら/アランニット制作日記 9月後編

 YUKI FUJISAWAがアランニットの個人オーダー会を開催するのは、これが2度目のことだ。最初に開催したのは2年前の冬にさかのぼる。 「ブランドを始めたときはまだ学生で、しばらくは実家の一室で制作していました。それだとお客さまどころか仕事関係者も呼びづらかったんです。そのうち台東デザイナーズビレッジという共同アトリエを借りて、外のギャラリーで展示会も開催していた頃、『お店のための展示会ではなくお客さまに向けた個人オーダー会にチャレンジしてみたい』という気持ちが芽生えて

夏の気配が残るオーダー会のはじまり/アランニット制作日記 9月前編

 アトリエの入り口にスリッパが2組、綺麗に揃えられていた。暑さ寒さも彼岸までと言うけれど、すっかり秋めいてきて、ニットの季節が近づいているのを感じる。  ゆきさんはアトリエの隅々まで掃除機をかけると、ウッディーベースのルームスプレーを振り、お客さまがやってくるのを待ちわびた様子でいる。  今日はこれから、オーダー会が開催される。YUKI FUJISAWAの代表作でもあるアランニットシリーズ「記憶の中のセーター」を、自分の希望に沿って仕上げてもらうことができるのだ。オーダー

残暑の残る東京の真ん中で、来るべき冬に向けて/アランニット制作日記 8月後編

 YUKI FUJISAWAのNEW VINTAGEは、ヴィンテージ素材に染めや箔を施すことで、新しい価値を生み出したものだ。古くから伝わるものに、別の角度から光を当てることで、新しい価値を生み出す――その姿勢は、内田染工場にも共通している。 「染めやプリントって、ある程度はテクニックが決まっているところもあるんです」とゆきさんは言う。「でも、内田染工場は若い職人さんも多くて、内田さんも新しいことに挑戦されていて。4年前に川上未映子さんの小説『あこがれ』をイメージしたニット

110年続く染工場さんの歴史/アランニット制作日記 8月中編

 ゆきさんと一緒に、内田染工場を訪ねる。普段はメールと電話でやりとりをするので、工場を訪れるのは今日で3度目だという。 「うちはもともと桐生で呉服屋をやっていたんです」。内田染工場の社長を務める内田光治さんはそう教えてくれた。内田家は代々呉服屋を営んできたけれど、内田作次さんは呉服屋を兄に任せて上京し、染色の技術を学んだ。そうして東京の山手・小石川に内田染工場を創業したのが明治42年――今から110年前のことだ。 昭和10年(1935年) 内田染工場 上棟式 「今はこっ

ヴィンテージと染工場との出会い/アランニット制作日記 8月前編

 7月はあんなに曇りが続いたのに、8月の東京は猛暑となり、空は嘘みたいに晴れ渡っていた。晴れていても曇っていても、そこにある風景は同じであるはずなのに、陽が射すかどうかで印象は変わる。すべては光の加減で決まっている。 「私はもともと色に興味があったんです」。サンプルとして染めた端切れを手に、ゆきさんが教えてくれた。色というのも、光の加減によるものだ。 「学生の頃、かわいい形のペンを使ってみると、つまんない勉強もちょっと楽しく思えたんです。そういう原体験があったから、自分が

2019年のニットの色を決める/アランニット制作日記 7月後編

 形を選ぶと、次は色だ。アトリエにあるニットの多くは、クリーミーな白い糸で編まれたアランニット。白さが特徴のニットを、染料で染めてゆく。 「このニットはそもそも、後から染めるってことを想定して作られてないんです。赤いニットが欲しかったら、最初から赤い糸を買ってきて編みますよね。それを後から染めようとすると、それぞれ染まり方が違うんです。どこのウールを使っているかによって染まり方が違ったり、糸の太さなど紡績方法によっても違ったりするんですよね。  だから、『なんとなくこんな

同じ時代に生きる人たちの、「今の気分」/アランニット制作日記 7月前編

今日からライターの橋本倫史さんによる制作記録が始まります。ヴィンテージ古着に箔と染めを施すことで、新しく生まれ変わらせる「NEW VINTAGE(ニュー ヴィンテージ)」シリーズ。白い無垢なアランニットがどのように変化していき、お客さまの手元に届くまでの、制作の日々を記録していきます。  その日も朝から曇っていた。ここまで晴れ間が見えない日が続くのは、統計を取り始めてから初めてのことだという。半袖では肌寒く感じるけれど、7月にニットで溢れている風景に少し驚く。 「このアト