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ニュージーランドの山奥で死ぬかと思った日のこと

誰かに優しくしてもらったとき、「今ここにある温かいものは、与えられたものではなくて、巡ってきたものなんだよなぁ」と、思う。

私がそれを強く意識するようになったのは、バックパッカーとして世界中を旅しているときだった。2015年の約1年間、大学を休学して30ヶ国以上を1人で転々としていたのだけど、お世辞にもしっかり者とは言えない私の旅は日々ハプニングの連続だった。

重度の方向音痴で、注意力散漫。そして物忘れが激しい。
紙の地図でしか経路を探せない街では、徒歩10分以内のホテルにたどり着くまで2時間以上かかることが多々あったし、ほとんどの衣服をホテルの屋上に干したまま忘れ、高速バスで遥か彼方の街へ移ったこともある(なぜチェックアウト前のパッキングで気づかないのか)。
実際に、命の危険を感じるような出来事もいくつかあった。


そのうちのひとつが、ニュージーランドで遭難危機一髪。

ニュージーランド北島にある田舎町で過ごしていたときのこと。
ハイキングをしに行こうと2時間ほどバスに揺られたて自然公園へ向かった。そこに広がっていたのは公園というよりも……ジャングルだった。

放置されすぎて、色々と腐敗してない?
とんでもなく大きいヘビとか出てきそう。アナコンダみたいな。

「ええええぇ……」と思いながらも、せっかく時間をかけてここまできたのだから、せめて1時間くらいは歩こうと思いジャングルの奥地まで進んでみる。

そうして私は、この景色に囲まれながら道に迷った。

スマホの電波はもちろん入らない。階段を上がった先には「道のようにも見える木の間」が広がっているだけで、重度の方向音痴がなんとなく歩いてきたであろう道を辿っていくという事態に。

とはいえ、階段まで辿り着ければバス停はすぐそこ。大丈夫大丈夫、と言い聞かせて帰路を探っているうちにスコール(突発的に訪れる強風や豪雨)に降られ、あたりは真っ暗になり、私はずぶ濡れになった。

雨が止むまで動かずに待機して、ようやく階段を見つけたのは3時間以上ジャングルを彷徨ったあと。体は冷え切っていたし、お腹もすいたし、足が痛い、視界も悪くて、本当にこのまま遭難するかと思った。

階段を下ったら、あとはバスに乗るだけだ。
バスに乗れば、ホテルに帰れる。
そうしてバスの時刻表を見ると、まだ終バスが残っていた。

……はずなのに、1時間以上待ってもなぜか来ない。周りには誰もいないし、空は本格的に暗くなり始めている(たしか18時前後だったと思う)。

日本では、バス停に時刻通りバスが訪れるのは普通だけれど、異国……それもこんな山奥で日本の「当たり前」は通用しない。私を置き去りにして、バスは営業を勝手に終了したらしい。
この地では、時刻表は確約ではなく「気が向いたら」程度のものなのだ。

とにかく寒いし、疲れ果てた私はその場にしゃがみ込んで、途方に暮れた。

……まぁ、しょうがない。
私に残された選択肢はひとつだ。車で2時間の道を今から歩くしかない。途中で運良くタクシーが見つかるかもしれないけれど、その出会いも期待はできない。

車で2時間って、徒歩何時間……?朝までには着く?いや、道に迷うだろうし、無理かぁ…。途中でホテルとか見つからないかな…いやぁ、行きのバスからは住宅地すら見えなかった気がするけど…。

しゃがみ込みながらグルグルと考えているうちに、段々と腹が立ってきた。

自分のポンコツさに、軽率さに、スコールに、私を迎えにこなかったバスに、この状況を生み出したすべてに対して怒りが湧いてきて、「もうなんなの!?!?いい加減にして!?!?」と、声を荒げながら立ち上がって、歩きはじめる。

どうせ誰も周りにいないんだから、フツフツと湧き上がる感情を抑えなくてもいいだろう。日本語だし、万が一誰かに聞かれても意味は伝わらない。

「もうハイキングなんてしない〜!!!!!!」
「自然公園っていうかジャングルだったじゃーーん!!!」

今思えば、このとき疲れ果てた体で“怒り”を捻出させたのは、防衛反応だったのだろう。
あんな状況で泣いてしまったら、心が折れてしまったら、それこそ最悪の事態になりかねない。

私が勝手に旅をすると決めて、勝手にニュージーランドに来て、勝手にハイキングをしようとジャングルまで来たのだ。誰に強いられたわけでもない。

全部自分で決めたことなのに、こんな場所でめそめそ泣いてどうする。落ち込もうとしている自分が愚かすぎて、「しっかりしてよ!」と背中を叩く。


怒りに身を任せ、ズンズンと道を歩き始めて30分ほど経った頃だろうか。


***


と……ここから先を今夜書くには、ちょっとタイムオーバーなので、続きはまた明日。毎日書くための時間配分の難しさを痛感しています。明日で完結するので、よかったらもう少しお付き合いくださいませ。

ひとまず、おやすみなさい🌙

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