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M&Aを成功に導く 財務デューディリジェンスの実務【書評その5】
皆様こんにちは。今回は実務に特化した本をご紹介します。
本書は実務の詳細を徹底的に解説しており、読み込むには相当の時間を要する内容です。
こんな方におすすめ!
投資銀行やコンサルティングファームでM&Aアドバイザリー業務に従事している方
経営企画部等でM&A担当をされている方
公認会計士などの専門職で、M&A関連サービスの知見を広げたい方
将来、投資銀行への就職を目指す就活生の方
きっかけ
本書はM&Aにおける財務デューディリジェンス業務(以下、財務DD)の実務書です。M&A実務に携わる方や、将来投資銀行での就職を目指す方(専門的な内容ですが)に最適な一冊です。
私は現在、コンサルティングファームでM&Aアドバイザリー業務を担当しております。
クライアント企業への財務DDサービス提供において本書を実務の参考書として活用しています。
本書の内容
本書は600ページを超え、内容は専門的です。簿記や会計学の基礎知識がないと理解が困難でしょう。私自身、証券アナリスト(CMA)や簿記2級の資格を持っていますが、理解には相当な努力が必要でした。
PwCの豊富な財務DDの経験に基づく本書は、M&A業界で実務書の定番として高い評価を得ています。6,000円を超える価格ですが、それ以上の実践的価値があります。財務DDの重要論点に加え、カーブアウトやクロスボーダー、交渉やPMIへの活用方法まで網羅した実務的な内容となっています。
ただし、現行の第4版は2014年の発行であるため、一部内容に古さが見られます。特に、会計基準や税制は常に更新されるため、最新の基準との整合性には注意が必要です。
第1部「M&Aの戦略と実行プロセス上の課題」では、M&A戦略、その目的、日本企業特有の課題を解説しています。財務DD実務の詳細な説明はありませんが、M&Aの全体像を理解する上で有用な導入部となっています。内容は古いものの、M&Aの本質的な目的は変わっていないため、概要把握には十分役立ちます。
第2部では財務DDの核心に入り、調査報告書の作成方法や実施手順を解説しています。第3章以降は「正常収益力」「キャッシュフロー」「貸借対照表・損益計算書項目」など、重要な分析項目を詳しく説明しています。近年注目を集めているコングロマリットの解消に関連する「カーブアウト」の分析手法も含まれています。
第3部では分析結果の活用方法を解説しています。M&Aではディール期間中の交渉が重要であり、発見された課題を価格や契約にどう反映させるかの基本的考え方が示されています。私自身、フィナンシャルアドバイザーとしてクライアントの窓口や交渉を担当することもあり、本書に記載されている考え方は参考になりました。また、法的な観点も詳細までは踏み込んでいませんが、法務DDチームとの協議に必要な知識は十分カバーされています。
第4部以降では、再生型M&A、クロスボーダーM&A、日本ではまだ珍しいセルサイド財務DDなど、特殊な論点を取り上げています。
巻末付録は、投資銀行やFAS部門の実務家は既存のひな形で十分かもしれません。現在ではExcelなどデジタルデータでのやり取りが主流のため、テンプレートのダウンロード機能があれば更に実用的だったと思います。
まとめ
財務DD実務の基本を網羅した本書は、M&A業界関係者にとって非常に有用な一冊です。ただし、内容の古さが気になる点や、一部の実務的論点で説明が不十分な箇所(「適宜検討が必要」という結論にとどまっている部分)については、今後の改訂での充実を期待したいところです。
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