返還要求運動の新たな視点②~運動は人脈づくり~

今回は、北方領土返還要求運動が「商売繁盛」につながるかという視点で書いていきたい。

北方領土出前講座の依頼が来た際、まず私がすることは資料の精査ではなく、即納1パック50枚の名刺の追加発注だ。特に、はじめてうかがう地域で、対象が一般社会人となれば、さらに倍を発注し持参するが、すぐになくなってしまう。

以前、ある企業に営業をかけたいが、コネがないことで、社員が悩んでいるところ、社長が、その営業をしたい企業の事業に参加したことでもらえる、ロゴ入りの記念品をもっていた…というTVのCMを見たことがある。

ビジネスは基本的に需要と供給でなりたつが、需要がないところに、新たな需要を作るというのは、とても難しい。それこそ資金力があれば注目・話題となることを作り、需要を生み出すという方法もあるが、それが仕掛けられるのはごく一部の企業だけで、大多数は、興味を持ってもらう以前に、交流する「きっかけ」を活かし、そこを突破口として、ビジネスへと発展させていく。言い換えれば「人脈」をいかに作り、活用するかということ。

上記のCMは、そういった人脈を社内で共有するシステムの広告で、その「きっかけづくり」「人脈づくり」で苦悩する営業マンをコミカルに描いた作品であり、「あるある」で共感できる内容だと感じた。

出前講座で各地に出向き、関係者や来場者と名刺を交換し、短いながらも会話させてもらう中で感じていたことは、当時30代の若造が、本来なら面と向かって会話できるような相手じゃない方々と話しているということ。

ホテルに帰り、いただいた名刺を確認すると、その地域で活動している経済団体や業界団体の会長をはじめとする理事・役員、そして地元の企業の会長、社長といった方々だったり、行政・学校の管理職だったりする。

何度か、公の場でのスピーチでも話したことがあるが、講演が終わって控室に戻る際、一般参加者の「おじいちゃん」に呼び止められ、会話をしていると、実は地域でも有数な老舗企業の会長で、しかも地元の青年会議所の役員経験者、さらに地区や日本の役員経験者という、青年会議所の現役会員から見れば近寄れないほど偉大な方と、出入口受付の横で立ち話する…なんてことがあったりもした。

この会場にいる参加者との人脈・ネットワークを活かせば、これからの地域づくりに必須といわれる「産官学連携」は簡単にできると思うし、当然ビジネス・商売における「人脈づくり」「きっかけづくり」でも活かせると思っている。

しかも、その事業に参加するのは、基本「無料」だったり、組織の会員になるにも年間で1万円も必要としない。何十万、何百万もするシステムを導入したり、異業種交流を目的とした団体やサロン、コミュニティーの会費を支払うよりコスパは良い。なにより、こういったコミュニティーが全国各地にあり、数十年と活動しているのだ。

私自身、北方領土返還要求運動に参加するようになったきっかけは、家業を手伝う上で、地域や、ルーツともいえる北方領土のことを多少なり勉強しなければという程度の簡単なもので、国家観や思想というより、商売の為だった。

20代前半の頃、私は金髪だったが、金髪の若い兄ちゃんが、事業に参加していると目立つ訳で、元島民の方々や各団体の役員の方から声をかけられ、その中で色々と北方領土のことや、地域のことを学んでいき、交流が進むにつれ、信頼関係ができ、仕事が依頼されるようになった。

私が返還要求運動に熱心だったり、北方領土関連の業務を依頼されるのは「元島民3世だから」と思っている人もいるが、上記で記載した通り、きっかけはビジネスのこと。そして交流していく中で運動の必要を感じていったし、業者・プロとしてもっとこうした方が良いという提案もする。そうやって関わりが深くなっていったからだと考えている。

もっと元島民の関係者という使命感や、国家観、思想や志があったら、仕事をする前に元島民の祖母と北方領土の話をしているだろうし、自身で元島民3世という肩書を使うようになったのも、北方領土出前講座の講師をする上で、わかりやすいと思ったから。なので金髪時代から顔なじみの関係者でも、つい最近私が3世だと知った方々も多かったりする。

北方領土関連をビジネス的な視点で語ると、なぜか批判されることがある。
それこそここ10年、北方領土現地視察を観光として推進する流れができたが、私が運動をはじめたころは観光と言えない、タブー化されていた。
また納沙布岬の北方領土啓発施設で展示物に関する業務をしていたら、観光客から「北方領土でカネ稼いでるのか?」と文句をいわれることも、1回や2回じゃない。

まるで崇高な理念を実現するためには自己犠牲が必要だ…といわんばかり。

北方領土返還要求運動で「商売繁盛」という視点は、理解されないし、否定されもする。

正直、運動に関連する予算は多くはない。
各地の団体が数千万、数億という予算で運営できていない。
よってそこに商売をして直接儲けようと思うのは間違いだ。

ただそこに関わっている人々と交流を持ち、人脈をつくる。
ビジネスとしての可能性が「0」だったものが、その人脈を辿って「1」「2」に変えられる…。
世の中の営業マンや経営者が、その可能性を0から1にするために、どれだけの労力や時間、経費を使っているか考えれば、コストパフォーマンスは優れていると考える。

各地域の運動に参加して、地域・社会に影響力があるようなお歴々の方々が多く、青年が少ないという状況を見て、青年の立場、青年経済人の一人としては「もったいない」と常に感じる。

事業終わりに、参加された来場者に名刺を配って挨拶すれば、自身のビジネスに活かせる人脈が築けるかもしれないし、ビジネスに役立つヒント、気づきを得られるかもしれない。

また社会的に地位を築かれた方々、人生の大先輩といわれる方々から、「なにかあったらいつでも連絡をして」といわれるだけで、どれだけ若手が心強いか。

異業種交流いわれるコミュニティーの最大の利点は、「0」から「1」に変える、新たな人脈、ヒント、気づきを得られる点だと考える。

北方領土返還要求運動は、まさに異業種交流・コミュニティーである。
だからこそ、運動に参加することは、ビジネスチャンスにつながる。

主催者側も、参加者側も、異業種交流、人脈・ネットワークづくりという視点で取り組めば、青年層の参加人数は増やせると考える。

国後島元島民3世 髙橋友樹

いいなと思ったら応援しよう!