返還要求運動の新たな視点①~高齢化問題と青年育成~

コロナ禍において、元島民が各地へ出向き、四島への想いや過去の出来事を語る「語り部」活動が困難となったことで、「リモート・語り部」という事業が多く行われた。ICTに不慣れな元島民をサポートするという業務を担当し、昨年度は年14回、語り部に関わらせていただいた。

意図的なのか、それともたまたまなのかはわからないが、歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の各四島の元居住者が担当しており、それぞれの島での思い出も含めて4名の方の話を聴けたのは、とても勉強になった1年でもある。

ただ、今年の2月、北方領土の日にあわせて開催された語り部事業において、4名中2名の方々で運営していた。

お一人は体調を崩され、お一人は急逝された。

急逝されたのは、国後島元居住者で、千島連盟根室支部長を務めていた宮谷内亮一様。
私が地元根室に帰郷して間もない頃から本業、また報道や青年会議所の運動でも、沢山のことを教えていただいた方であり、亡くなられる数日前に、他の講師が行っていたリモート語り部を視察され、私にもねぎらいの声をかけていただいたばかりだったので、すごくショックだったと同時に「元島民の高齢化」の問題をより一層強く感じることにもなった。

高齢化という点で、懸念することは、「元島民」だけではない。

コロナ禍以前の話なので、状況は変わっているかもしれないし、たまたま私が参加した全国各地の事業だけなのかもしれないが、北方領土関連事業の参加者の6割以上が60代以上で、高齢者がとても多い。20代~40代は見つける方が難しく、いても教員や行政などの職員。地域によっては青年会議所や青年団、各業界の青年団体が積極的に参加している一方、主催参画団体にも関わらず青年団体から誰一人出席していないということもある。

その事業が「青少年育成」となると、当然なことだが小学生・中学生の参加が多くなる。それこそ、青年層が、公務員の事務方や担当職員だけで、高齢者と青少年だけの事業というのもある。

私が返還要求運動に関わるようになった2000年前半は、まだ後継者育成として青少年育成の取り組みも少なかった。元島民をはじめ関係団体が尽力され、教科書への記述や公立高校受験での出題、さらに修学旅行誘致をはじめとする「目で見る運動」などが増えていった。

2008年度から根室青年会議所で実施している後継者育成事業北方領土出前講座も、当初は実施に難色を示す学校が多かったが、北方領土学習、領土・領海や主権に関する教育の推進という後押しがあって、円滑に実施できるようになっていった。

まさに10年以上かけて「青少年育成」が社会的に受け入れられ、確立されたと言える。

ただ後継者育成・青少年育成が確立された青少年の世代が、社会で活躍し、組織・団体でリーダーシップを発揮するには、早くて30代、大抵は社会で一定の立場を築いた40代、50代になってからで20年先の話になる。

一方、現在60代で運動の主軸を担っている世代は、今はまだバリバリ現役でも今後10年で引退される方が増え始めるし、これまで通りに積極に参加もできなくなる。

まさに運動推進者の高齢化の問題である。

そして現在の主軸から運動のバトンを受け取り、そして青少年育成世代へとバトンを渡す、現在30代~50代が「少ない」という運動後継者不足・青年不足の問題もあると考える。

これからは北方領土返還要求運動の後継者問題・高齢化問題は、「元島民だけじゃない」ということと、「青少年育成」だけではなく「青年育成」も大事だという認識が重要であり、「青年世代」が活躍できる返還要求運動、参加しやすい返還要求運動という視点が今後求められる。

なぜ青年世代の参加が少ないのか…

原因は少子高齢化という社会構造に対してアプローチが的外れだからだと考える。

少子高齢化による問題としてメディアに取り上げられるのは、高齢者を少ない青年層で支えるということが課題としてピックアップされる。これは年金など社会保障といった視点であり、経済という視点でいえば、自分より下の世代の人材・人員不足による負担増という課題の方が「目の前の課題」である。

簡単にいえば、自分がいなければ現場が回らないという青年が増えている。

また夫婦共働きが当たり前の社会においては、青年層の夫婦ともに仕事での負担が増えている中で、家事や育児をするという意味でもあり、限られたプライベートな時間の過ごし方にこだわりを持っている青年も多い。

青年会議所の会員として会員拡大・勧誘活動をしてきたが、この現状の中で、さらに社会奉仕の運動・活動をやるというのは、負担増であり、仕事か家庭、プライベートのどれか、またはすべてにデメリットになることへの不安が多い。目の前の「やること」に一杯になっている者に、「将来・未来」や「志」という「不確定要素」は通じない。

「北方領土問題への意識を醸成し、国民世論の喚起で外交交渉を後押しする」

これが北方領土返還要求運動の目的である。

意識や想い、願い、志という精神的なものが外交交渉を後押しするという、ある意味、精神論が大好きな日本人にとっては、心に響くキャッチコピーだが、返還要求運動は「志を高める」ための運動であるということを忘れてはいけない。

返還運動に対して、ある先輩が「道東は熱湯、それ以外は冷水」と表現したことがある。

元島民や元島民関係者にとっては、故郷への帰還、残地財産保障など明確なメリットがある。
道東のような隣接地域は、水産業をはじめ経済的なメリットがある。
まさに自分事、目の前の課題として問題を理解し、それを解決することへの明確なメリットがある。

一方、隣接地域から離れるほど、メリットが薄れてしまい、その代わり「概念」「道理」や「志」としての運動が強くなる傾向がある。

結果、概念や道理、志としての意識醸成がなければ、そもそも運動に参加しない。「志」を高める運動なのに、志がなければ参加しない運動…

目的と目標・手法に整合性がない状態であり、私が約20年間携わってきて感じている北方領土返還要求運動の側面だ。

言い換えれば、志がまだない者が参加したいと思えるような運動にすること。仕事や家庭、プライベートへのデメリットに対して、明確なメリットがなければ、そもそも参加したいとは思わない。

極論的理想を言えば…
北方領土返還要求運動に参加したら「商売繁盛」「家庭円満」「ストレス解消」になれば青年層の参加者は一気に増える。

以前、それを話したら、相手にされなかったことがあるが…

②では、具体例をもって必要性を記載していきたい。

国後島元島民3世 髙橋 友樹

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