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ひとりなら/榮猿丸 鑑賞文/ゆきまち

俳句四季 2021.12月号 俳句と短歌の競詠より 
榮猿丸先生の ひとりなら~10句の鑑賞文です

重ね脱ぎせる女の胴や捩れ伸ぶ

俳人というものは観察力の鬼だ
(最大級の尊敬の言葉です。)と感じた一句。
また、わたしの辿り着きたいと思う場所の頂点にある一句でもあります。

私は女なので見られている彼女目線で鑑賞します。
着膨れたわたし。
先に帰っていた彼に迎えられる。
コートを脱いで四枚の重ね着した服を脱ぐ。
うまく脱げない。クスクス笑う声。
「着すぎ。」と一言彼の声。
他人と暮らすのはしんどい。
そしてとてつもなく愛しい。
恋と愛の交わる空間は永遠ではないからこそたまらなく愛しいのだ。
たとえばそれが恋一夜であったとしても。

白息のおほいなる君悩むなよ

この白息はため息。
それでもよし!と自分を奮い立たせ生きていこうとするわたしの姿勢。

君こそ我が誇り。君を誇りに思うよ。大丈夫。間違っていないよとこの句を一読してそう言われているようで、心が疲れ果ててしまいそうなとき先生のこの句を思い出す。私は前向きだ。前向きなれるのはこの猿丸先生の句のおかげだ。「悩むなよ」の下五に「うん。負けないよ。」って答えてしまう。
俳句は凄い。先生は凄いです。

黙の果モヘアの胸の糸くづ摘む

黙(もだ)は沈黙だ。
沈黙の沈黙の沈黙の先、黙の果。
長い長い沈黙の後。
わたしの胸もとの糸くづに気づいたあなた。
糸くずを「摘む」の細やかな詩の心地よさ。
二人の時間を重ねるほど沈黙も苦痛ではなくなる。多分苦痛ならお別れしてます。
黙の果にある糸くずを摘む行為は愛。
ケンカで沈黙していたならば「ごめん」って事かも。口で言ってよって思うけれど私はそんなシャイなところも好きなんだ。
この句の果にあるのは「愛しさといじらしさ」
私の鑑賞が果てしなく広がりすぎていたら恥ずかしい。でも俳句も鑑賞も自由にでしたよね!先生(笑)

電子レンジの扉に映る毛布かな

「今日はなんにもしたくない!」
毛布にくるまり映画を見ようよ。
「毛布かな」の詠嘆はやさしくて。
悲しい場面じゃないはず。
チンした冷凍ピザを取り出してバタンと閉めた瞬間に真っ暗なレンジ越しに見えた毛布。
くるまったまま立ち上がってうろうろしてる君は面白い。レンジ越しだとより滑稽。
毛布はまるで着ぐるみのようで、ブラウンでよかった。ピンクなら子ブタだったよ。

別れ告ぐれば残響あはし冬苺

季語「冬苺」がひときわ赤い。
なんの残響?言い合いの声?
出会いがあれば別れがあるなら私は最近、大切な人だからこそ少し距離を置きたいと思うようになった。見たくないものまで見えてしまってもその人を好きでいられるのか。
相思相愛は魅力的だ同時に破壊力を兼ね備えている。悲しくも真っ赤な冬苺。
それでも甘くて美味しいだろう。
別れを告げた方も告げられた方にも。

蜜柑一房抓み胎の子これくらゐ

妊娠2ヶ月と少しくらい。みかん一房はそれくらいです。
私は過去に流産の経験があります。

あの子らを産んではやれず落花浴ぶ/ゆきまち

今回先生のこの10句を詠んだ時に2020年春に詠んだ自句を思い出しました。
妊り失った自分だけが苦しいと思っていた。
でも当時彼もきっと苦しかったんだと、そして沢山考え思いを馳せてくれていたはずだと自身の経験と重なり救われた自分がいます。

鼬ひき殺しただらうひとりなら

命の尊さに気づく事で人は優しくなれる。
誰かを守りたい。そんな人がいる事は幸せなはずなのに心に重みを感じてくる不思議。
ひとりじゃないことをどう感じどう思う。
この句に感情は詠まれていない。
ひとりならひき殺していただろうと投げかけられて私は複雑な今まで感じたことのない思いに戸惑う。この句から離れられなくなる。
明日、明後日、1年後にどう詠むだろう。
忘れる事のできない一句。

電線に天使ぎつしり聖夜の果

びっしりとぎっしりと何が電線に見えるかと、風にゆわんと揺れる電線に天使が見えた。
聖夜の果とはどこ。
わたしがというよりわたしを見ている天使たち。
聖夜の果にはわたしと天使たち。
ひとりのわたしに何をみる。
このまま天使といようかと目を閉じた。
瞼に冷たい雪が触れ解ける。

君消えて黝き穴や布団の中

布団と君はセットだった。よく眠る君も嫌いじゃなかった。君は灯りだったのかな。
布団の中がぼんやり青黒い。
闇がこわい?
いや、以外とよく眠れるかな。
眩しい君はもういないから。
布団の中はなかなか暖まらないけれど。

五感のみ目覚むるからだ十二月

からだをまだ動かしたくない動けないのは十二月のせいにする。口内炎できたかもとかの口の事情やら、郵便屋のバイクの音とか今日は晴れなのもカーテンの隙間から覗く光でわかる。
五感とからだがちぐはぐ。
12月って光と影が共存している。

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