見出し画像

[漫画&ブログ] オッサンの気づき 第39話 ~怒りTVに気づいた!~

よく、「不安をあおる広告って嫌だよね~」みたいな言い方ってありますよね。そして実際、不安をあおる広告は多いですよね。見た目に関する広告を例にとれば、シミ・シワはもちろん、鼻の毛穴とか歯の黄ばみとかお腹の脂肪とか…電車の広告では、高校生向けの美容整形の広告までありました。昔はそんなにありませんでした。シミ・シワに関する広告はちょっとあった気がしますが、結構みんな肌は荒れてるし歯もガタガタだし歳をとれば太ってきていました。美容整形なんて異常者という扱いでした。けれども自己肯定感は今より高い世の中でした。つまり、「そんなもんだよね」という空気感があったのです。私も歯並びが悪いですが、特に気にしていませんし、友達に指摘された事もありません。対して現代は美容グッズが増えて、シミ・シワや毛穴を隠せたり、歯は小さい頃から矯正したり、美容整形も昔よりはありな雰囲気になりました。でも見た目にコンプレックスを持つ人はすごく多いですよね。見た目で気になる所を修正する事が容易になったのに、幸福度は下がっているのです。おかしいですよね。食べ物で言えば、好きな時に好きなだけ食べられるよりも、はらぺこのほうが幸せであるみたいな事です。そしてそれは、自分の望みが叶うという「ヤッター感」以上に、外から受ける「私はだめだ感」のほうが大きくなってしまったせいではないか、さらにそれはTV番組やWEBコンテンツなどに「心を弱らせる」働きがあり、それによってその後の広告の「不安に誘導する」がより効果的になる、という二段階の戦略で我々に刷り込まれてしまったんではないか、誰かのお金稼ぎのために、というような事が、今回の漫画で言いたかった事です。

以前の闇子ちゃんで、不正解を「汚れ」ととらえるのではなく「色」ととらえましょうという漫画を描きましたが、それともちょっと関連すると思うんです。そもそもシミとかシワは、髪が伸びるのと同じ自然な現象です。でも、「それは不正解ですよ」というメッセージを、例えば老人とかのシワの多い人を笑いものにする番組で発信し、「自分は不正解なのか…」と思わせて心を弱らせます。さらにそこで「ほら、良いシミ・シワ修正アイテムがありますよ~」と誘導すれば、その商品は売れるわけです。でも、一回刷り込まれた「自分は不正解である」という意識は消えません。そして我々の脳は物事を単純化するクセがあります。なので「顔のシミ・シワ」が脳内で単純化されて、「服のシミ・シワ」、「人生のシミ・シワ」までも気になり始めるんだと思うんです。それがこの闇子ちゃんの状態です。

人生におけるシミ・シワは、本来は人生経験としてその人自身を深めます。例えば、正直なところ、私の漫画ってそこそこ深いですよね。それって私自身が言わばシミ・シワばっかりの人生だったからです。漫画に関する事だけにしても、美術系の大学には入れなかったですし、デビューまで30年かかっていますし、その間くやしい目にもいっぱいあいました。割と異常な経験だったと思います。恋愛にしても、今私は妻ちゃんに愛情MAXを注いでいるわけですが、そういう人生に至るまでいろいろな経験がありました。小学生の頃の初恋の女の子は、中学校の時友達に食われてしまいましたし、彼女を他の人にとられるなんて1回や2回じゃないですし、援助交際とか自殺未遂をしていた子とつきあっていた時もありました。というか女性経験自体が普通より結構多かったです。夢と恋愛って人間にとっての大きな二つの柱ですよね。その2つの振れ幅が大きかったので、はたから見たらレアな事を今やれているんだと思いますし、考える系の人になったのでうつ病にもなったんだと思います。端的に言えば頭のねじが少しおかしくなってしまったわけです。でもそれらの事は自分では、シミ・シワや不正解ではなく今に活きる経験としてとらえています。それは、誰かから誘導されてやってた経験ではなく、自分でやっていた経験だからです。誰かから誘導されてやった事って、何か心にひっかかりが残るんです。ひっかかりが残るという事はそれだけ気になっちゃうという事です。だから、そういう心理を利用した弱らせ&誘導戦略がこんなに有効なんじゃないかなと思うんです。

私の世代は恋愛がすごく重要な出来事でした。1980年代は恋愛ブームで、ドラマも漫画も恋愛要素がすごく多かったです。有名漫画の「タッチ」だって野球の漫画と思いきや恋愛漫画ですしね。そもそもラブコメのジャンルがすごく人気で、恋愛という一点だけをモチーフにして、細かい心の動きをなぞる漫画が成り立っていました。現代はそういう漫画は少なく、恋愛をモチーフにした美少女/イケメン漫画が主流です。その後の1990年代は享楽的でした。男性/女性関係が派手なほうがクールみたいな価値観が強くなりました。1980年代の恋愛のゴールは結婚して家庭を築く的な所にあったのに対して、1990年代からはエロイ事のほうにフォーカスが当たるようになりました。考えてみればおかしな流れですよね。恋愛は繁殖のための過程というのが生き物としての自然な流れです。つまり結婚して家庭を築くという事がゴールで良かったはずです。でもエロ快楽のほうがメインになってきたわけです。例えるなら、ごはんを食べるのはモグモグかんでウムっと飲み込んでお腹がいっぱいになって栄養を吸収するのが本来の目的なのに、モグモグかむほうがメインになっているような事です。たぶんこれも、何かの誘導戦略があったんじゃないかなと思うんです。恋愛と結婚では売れる物が違いますよね。恋愛はデートに関する物が売れて、結婚では生活に関する物が売れます。そしてデートのほうが生活よりも売れる物にバリエーションがあります。遊びに行く場所、プレゼント、良い感じの洋服、それぞれは毎日~毎年変化があるものです。恋愛の状態が続く限り変化をつけて売り続ける事が可能です。逆に結婚して例えば新居にテーブルを買ったら、それは当分買い替えません。売り続ける事ができません。そういうのもあって結婚よりも恋愛をメインしてお金儲けをする誘導戦略が、この頃にあったんじゃないかなーと、この漫画を描きながら思っていました。実際、今の彼女と結婚したくない or 結婚自体したくない(けど彼女がいる)という概念が、1990年代~2000年代にすごく増えた印象がありました。女の子から、同棲している彼氏が結婚する気ゼロでほんとむかつくみたいな相談を聞くこともとても多かったです。

でもこういう流れって、異性と接点が少ない側の人にとってはすごく嫌なものだったはずなんです。世の中全体の意識にそういった恋愛とお金儲け戦略が刷り込まれた事によって「異性との接点(特に性的に)が少ない人は劣っている」みたいな価値観が強くなってしまったのです。これもおかしな話ですよね。最終的に生き物的に繁殖する相手は一人でいいのに、繁殖しないけどエロイことだけする側のほうが良いとなっていたのです。これはたぶん男性側に強い価値観でした。ファッション雑誌では女の子にもてる方法だの、本当だかうそだかわからないエロ体験談などがばんばん載っていました。ちなみに私は当時モデルというか芸能というかそういう事務所に所属していて、そういうページに載った事があります。でも使われたのは私の写真だけで、そこに載っていたエロ体験談はライターが書いたものでした。なのであの手のモテ体験談はたぶんだいたい嘘です。そうやって読者の「モテなきゃ!」の気持ちをあおるほうがファッション関連の物が売れますもんね。そういう戦略だったんだと思います。何にしても、そういうお金儲け戦略によりコンプレックスを持ってしまう人が増えました。本来存在しないコンプレックスです。実在しないエロ体験談に、必要の無いモテという行動に、不安をあおられていたわけです。そして似たような図式が、例えば高い車に乗っているほうがクールとか、豪華な結婚式をするほうがクールとか、芸能人と知り合いであるほうがクールとか、いろいろ存在するのではないでしょうか。高い車も豪華な結婚式も芸能人が格上という価値観も、全部誰かのお金儲けのために作られた価値観なのに、です。

私の高校は体育会系の学校だったため、校則がとても厳しかったです。生徒も先生に服従する感じでした。私はヤンキー中学出身のため、その高校になじめませんでした。呼び出されて説教をされるのも何度もありました。同じ中学出身のヤンキー友達はすぐ退学してしまいました。私も一年生の一学期で早くも停学になったり素行不良で退学寸前でした。その間、自己肯定感は下がっていました。でもおかしいですよね。中学と高校で、その場所の価値観が違うというだけで、私自身は同じ人間です。自分は何も変わっていないのに、環境が変わって違う価値観が刷り込まれると、自己評価が変わってしまうのです。例えばバナナは日本で食べてもイースター島で食べても同じおいしい果物ですよね。食べる環境で評価が変わるなんてことはないですよね。でも私は環境が変わったら自分への評価が変わってしまいました。そのくらい、我々は刷り込みに弱いのです。

さらに、校則が厳しいので髪を伸ばしたり染めたりもできませんでした。最初は無視して伸ばしたり染めたりしていたのですが、ヤンキー中学と違い他の誰もそういう事をしない(というか体育会系なので丸坊主が多い)ので、目立ってすぐ先生につかまってしまうのです。みんなの前に出されてどなられたり、ごめんなさいと言わされたりというのも何度もありました。そうしていくうちに、これは従ったほうがラクなのではということで、やっと落ち着いた髪にしはじめたのですが、するとなんと、見た目にコンプレックスを持つようになってしまったのです。何で自分はこんな変な髪型なのか、あっニキビがある恥ずかしい、暑い日は顔がテカって不潔だ、何も得意分野が無い自分は劣った存在だ、など、今まで感じた事のない感覚でした。それは↑↑で書いたように、この「従う」という行動は誰かから誘導されてやった事だからだと思います。心にひっかかりが残るんですね。そのひっかかりが肥大化して、最終的には、周りの人が自分を笑ってるような感覚にもなっていました。当時は美大受験のため、割と栄えている隣の街までデッサン教室に通っていたのですが、人が多い場所に行くとみんなが自分を見下しているような感覚があって本当に辛かったです。もし私が女の子で、あの時電車内に高校生向けの美容整形の広告があったら、高確率で整形していたと思います。完全に弱っていたんですね。そしてその時の私のように、現代は弱らせて誘導する戦略にあふれているのではないでしょうか。高校は3年間で終わりますが、世の中の弱らせコンテンツや不安広告は一生続きますしね。ただ、漫画にも描いたとおり、その事自体は自然な流れだと思います。程度の差はあれ、我々の社会はお金稼ぎで成り立っています。このブログだって、善意とかではなくお金を稼ぎたいから、誰かがパソコンを発明しインターネットを整備したから書けているのですから。ただ、いきすぎたお金稼ぎ、自分達の幸福度を下げるようなものからは身を守ったほうがいいと思うのです。

最後に、こういうのって他の国はどうなんだろう、弱らせて不安に誘導する戦略、そしてそれに影響されやすいのは日本だけなんだろうかと思ってTwitterで質問をしてみました。するといろいろな回答をいただきました

[要約]
CMやメディアの影響力は今まで以上に大きくなっていますね。おっしゃる通り、多くの企業や権力者は我々を不安にさせる戦略で商品を買わせたりコントロールしたりしてきます。

[要約]
ここブラジルのメディアでも、そしてたぶん世界中でも似たような事が起きています。

[要約]
ここ西洋でも同じく不安を使った戦略が存在します。…が、ここ数年、人々は「我々の商品を使わないとあなたは醜いまんまだよ~」的な広告にNOを突きつけるようになりました。まだまだ国によりけりですけどね。

[要約]
その通り、だいたい欧米も一緒です。特にインターネットとSNSが加速させました。誰でも軽々しく資本主義の戦略を扱えるようになったからです。みんなお互いを比較し合うようになり、頭がおかしくなり、不安になる…。


心を弱らせる番組作りについてはわかりませんでしたが、不安をあおる広告に関してはいろいろな国で同じ傾向があるようです。やっぱりこういうのって、人間の本能に響く心理操作で、だからこそ我々は意識して自分を守らなければいけませんね。そしてあるフォロワーは、とても面白い動画を紹介してくれました。

なんとこの不安をあおる心理操作は、1930年代から存在するそうです。100年近く前ですね。それが今も使われてるというのは、それだけ効果的である証拠だと思います。特に印象的だったのが、1:07から述べられている "Create a feeling of DOOM!" の部分です。消費者に破滅を意識させろという意味です。破滅とは文字通りの意味もあれば、フワッとした「やばい」という意味もあると思います。こうしないとやばい、つまりは「◯◯しなくてはいけない」、「◯◯すべき」、「〇〇しないと私はだめだ」という思考パターンに導けという事です。この思考パターンは現代にすごく多いですよね。私はそれは、不安傾向のある日本人の国民性だと思っていたのですが、ひょっとしたら逆で、お金儲け戦略をやりすぎた副作用で、そういう国民性になってしまったのかもしれません。今やお金儲けは大企業だけでなく個人がWEBを違ってカジュアルに行うものにもなってきました。我々は売れるための戦略に無意識に触れ続けてしまっています。しかもスマホがあるのでさらに年がら年じゅうそういうものに触れています。これはもう逃れられないものなので、ぜひ意識して「なんかうっすらやばい感があるけどこれはだいたいは誰かのお金儲けで植え付けられたやばい感だ」と考えるようにしましょう。ただでさえ、景気が悪かったり少子高齢化で本当の不安が存在する世の中なので、正しい不安を持ち、正しくない不安はスルーできればベストだと思います。


[おまけ]
心を弱らせる番組作りについて、私は「つっこみメイン」もその一種なんじゃないかと思いました。

最初からそれを狙ったわけではないと思いますが、つっこみメインのほうが何か食いつきがいいぞという気づきがあったのではという事です。つっこみって言い換えると「違和感を指摘する」なので、何かに対して怒ってばかりのワイドショーだったり、シミ・シワ気になりますよねのCMと根本的な共通点がある気がします。まあほんと、深く考えずボヤっとしてるのが最強ですね。


いいなと思ったら応援しよう!