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UNTITLED
僕らはいつも、パンを分け合い、コーヒーで乾杯した。
朝の寝ぼけた挨拶の後にも、穏やかな昼下がりにも、ワクワクするような冒険の前にも、降るような星空の下でも。
まっしろに曇った列車のガラスを服の袖できゅっと拭いて、向かいに座る君は窓の外を覗いた。君の息ですぐにまた窓は白く曇る。
「あとどのくらいで着くかわかる?」
「3.4駅ってとこかな。30分くらいはあるよ。」
「もうすぐじゃない。降りるとこはものすごく寒いとこだ。しっかりあったかくしなよ。」
そういって君は僕に厚手のコートを投げて寄越す。僕は君の手袋を代わりに投げ返した。
すっかり雪の中を歩く支度を整え、手袋とマフラーだけを窓のそばにひっかけて到着を待つ。
僕は列車の中でまだ景色を眺めていたいような、早く凍みた空気の中に駆け出したいような、よくわからない感覚に揺られていた。
「なんだか気持ちが落ち着かないな。」
「コーヒー飲もうか。」
君はポケットから小さな缶を取り出して振る。
いいねえ、と応えて僕は水筒を引っ張り出した。
お互いのカバンのカラビナに引っ掛けたアルミのカップを外して並べる。
君がカップにインスタントコーヒーをザラザラと零し入れ、僕がお湯を注ぐ。
柔らかな湯気が踊る。わっと広がる香りに大きく息をついた。
「あったかいコーヒーには、寒い空気がよく合うね。」
君はにやっと笑って僕にカップを差し出す。コツンとカップをぶつけて鳴らした。
「「乾杯」」
ひとくち飲んで、身体が中からほっこりとして思わず笑顔になる。
「こんなんあるけど食べる?」
僕は思い出して、ポケットから半分くらいになった板チョコを出した。前の町で買ったおやつの残りだ。
「ありがたいけど、それは遭難したとき用。」
「冗談じゃないよ、これから雪の深いとこへ行こうって言うのに!」
「嘘だよごめんよ、もらうもらう。」
ポケットへ戻しかけたチョコを、小さくポキンと折って渡す。最高の3時だな、と君はチョコをちょっとかじってコーヒーを追わせた。もう5時なんだよなあ、と、僕は憮然としたフリをして返す。ごめんって、と君は笑って言った。
僕は自分の分をまるごと口へ放り込んで、温かいカップを両手で包む。
気付けば電光掲示板が、僕らの目的地が近いことをチカチカと知らせるのだった。