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薬物都市
この都市は薬物で出来ている、昔は泥でできていた。どちらも汚れていることには違いない、汚れた人間たちがいるに違いない。
すれ違うものの多くは希望を失い、鋭利な心を、その腐りきった肉で包み込んで縒れた外套の下に隠している。もしも俯くことが己を保つ最終手段だとするならば、私はこの都市の、薬液のような手の中に顔をうずめるとするよ。
全てを語り終えた詩人のような目を臥せて、誰にも悟られぬように。
一つだけ私は知っている。あの喫煙所は何人もの命を吸い続けてきた。だからもうあの場所に灰皿は置いていない。変わりに真っ赤な花が咲いた。しかしそれも、もうじき枯れてしまう。
あの子どもたちから遺灰の臭いがするのは何故だろうと考えたことがある。恐らくきっと、あの花に添えるためだ。
あの花がこの都市にとって希望の象徴であるとすれば、あの子どもたちは、喫煙所の花を生き長らえさせるために存在しているに違いない。
早くあの子どもを喫煙所に閉じ込めなければ!
汚れた命と煙がこびりついたあの場所に!
ああ、目がチカチカする。不快な色たちが網目状になって私に迫り、網膜を焦がす、スーツの衣擦れの音だけが聞こえる、誰か、早くあの子どもたちを。
そうだ、一つ思い出した。
泥だ、泥を持ってこないと。
そこに花を植えて薬液を与えよう。
きっと札束に変わるはずだ。私を生かす恩寵の花になるに違いない。