『君たちはどう生きるか』を観てのメモ
ぼくはこの作品をどう受け止めたのか
僕はこの映画は宮崎駿はどう生きていたか?(=宮崎駿にとって生きるとはスタジオジブリにてアニメを作り続けていること)を魅せられた感覚を受け、その上で「君たちはどう生きるか」と問われた気がしました。
そしてそれは「生きてい”た”か」という過去形であり、これは流石に遺作なのでは、ととても思ったので寂しさ、というのがずんと心に残りました。
この作品をもって宮崎駿は何と決別したのか?
大きなテーマとして「母からの決別」という解釈がちらほらありますが、僕はこれを「作品づくりからの本当の決別」を表現しているように見えました。
この作品でまず思ったのはどこかしら感じる閉鎖感です。戦争という外的環境との接続は描かれますが、最初のみであとはほぼ庭でのみの出来事です。学校という表現もありますが、前半でほぼ関係性は途切れる。『風立ちぬ』のように外的環境はほぼ描かれません。
これはアニメをつくる、「閉鎖的なスタジオ」を想起させました。ひたすらに絵を描き続ける作業。そこに外部はありません。
「母」と「作品づくり」とはなにか?
母、というのは本当の母ではなく、描く上での理想形、宮崎駿自身の欲望の根源に見えました。あくまで幻想としての母親です。
すべてを受け入れてくれる母親、大人になると実の母親というのは「全知全能の神」から「人間」となり、それによって人間は自立します。
宮崎駿はずっと実母に囚われていた、というわけではなく、作品づくりにおける起点、その幻想としての母親を描いていたのではないか。つまり囚われていたのは作品づくりなのではないか。
ジブリ作品というのはとても魅力的なヒロインがでてくるところが印象的です。僕自身小さい頃に魔女宅のキキに恋心のようなものを想ってしまったことを記憶しています。しかも若いところが特徴。
若い母親というところからもあくまで実の母親ではなく理想形、宮崎駿自身の欲望の表現であることを思わせます。若い母親なんて見たことないはずですから。
主人公眞人が少年であること、母に会うまでは母への欲望をひたむきに隠す少年であること、母に会うとジャムをこぼしながらパンを貪る純粋な少年であること。
これは作品づくりに向かう宮崎駿自身の自己認識と作品づくりに向かってないときの自己認識のギャップを表しているのではないか、と感じました。
作品づくりをしているときはやっぱり夢中で楽しくて、そこに浸っていたくて。でもそうじゃないときは真面目にひたむきに生きているわけです。
母のつくったパンをとても幸せそうに頬張っている眞人を思い出すと泣きそうになります。
インコとTwitterと批評
ジブリ作品は世に出すたびに多くの批評にさらされます。「最近のジブリは面白くない」とかなんとかかんとか。
インコというのは僕はTwitterのメタファーに見えました。みんな同じような悪口を言ってくるうざったい批評家。作品をつくっている間はそのインコに応えられるだろうかというのは恐怖感があります。
一方でその作品を世に出し、現実に戻ると可愛いものです。糞をつけてくる鳥にすぎません。作品づくりのときはプレッシャーを与えてくるが、世に出したらとくに怖くない可愛い存在という批評家のメタファーとしてのインコ。
それはTwitterの青い鳥とも言えるのではないか。
作品づくりとの決別
また、印象的なのは「あと一日もつ」とかいいながら同じような神殿みたいなところを2-3回同じカットで通る場面が心に残ります。
これは監督をもうやめよう、と言ってそれでもあと1作品、あと1作品とつくってきていた宮崎駿の「繰り返し」を想起させます。
そのなかでインコ(批評家)の王が「こうだろ!」と言ってきてこの世界はぶっ壊れます。このファンタジー世界は庭というスタジオのなかのさらに「アニメ制作をしていく生活」を指しているのではないか。
そしてそれは終わりを告げる。ここに宮崎駿作品の本当の「作品づくり」からの決別を感じました。幻想としての母親という作品づくりのコアだった存在との決別、なんかアニメ制作中文句言ってきていたアオサギも、まあ世に出るときは友達です。
一瞬外にでて、でもドアノブから手を離さないで、と母に言われているシーンも印象的です。アニメをつくること、その囚われから抜けて外の世界に戻ってしまうと自分は二度と作品づくりに戻れないのではないか?と宮崎駿は感じていたのではないか。
そういう意味でもドアノブから手を離した眞人、つまり宮崎駿は本当に作品づくりから決別したのではないでしょうか。
ありがとうジブリ映画!
そんなことを感じ、思い出すと泣きそうになる、今までありがとう!宮崎駿さん!と思わず言ってしまいたくなる映画。
それが幼少期、『となりのトトロ』や『千と千尋の神隠し』、『天空の城ラピュタ』『魔女の宅急便』を120回くらい観た僕にとっての『君たちはどう生きるか』という映画でした。