苦境の調査報道、壊れたエコシステム

スマートニュース メディア研究所が設立され、所長の瀬尾 を中心として、活動を開始しています。

スマートニュース、『スマートニュース メディア研究所』を設立し、所長に瀬尾傑氏が就任

活動の一環として、社員を対象にして、2018年8月21日にスマートニュース社内で「調査報道PJ勉強会」の第一回が行われました。調査報道というのは、あまり耳慣れた言葉ではなく、知らない方も多いと思いますし、私も正直瀬尾さんに説明受けるまでは知らなかったし、故に興味もありませんでした。知らないものに興味をもてないという典型ですね。

今回、 『官報複合体 権力と一体化する新聞の大罪』著者の牧野洋さんにお越し頂いて、調査報道についてお聞きしました。

参加して、私自身、調査報道についての理解が深まったのと、スマニューがこれを支え続ける意味や意義というものを感じることできて、とても良かったです。

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションにおいて、調査報道から生まれる情報は、損得関係なく支援しなければならぬという思いを強くした次第です。

この気づきを、社内にとどめておくのはもったいないと思いまして、自分が気になったポイントを、スマートニュースのコアバリューの一つであるfor the common goodに基づき、社外のみなさまにも、共有したいと思います。

本記事は、スマートニュースの社内qiitaに投稿された文章を元に、Takayuki Yaeo、藤村厚夫、Hisashi Nakagawaからの補足コメントを追記して作成されました。各位の協力に感謝します。

権力が報じてほしくないと思うことを報じるのがジャーナリズム。それ以外はすべて広報活動(ジョージ・オーウェル)

ジョージ・オーウェル、ずばっと言いますね。

なぜジャーナリストは特別なのか?憲法で守られているから。合法的に国家機密を入手し、世間に公開できる業界がマスコミだから(デイナ・プリースト)

例として、スノーデンは捕まったら終身刑は確実だが、それを報じたグレン・グリーンウォルドはジャーナリズムの世界で引き続き活躍を続けている。

アクセスジャーナリズムとは?記者が政府高官や企業経営者に気に入られ、特別な情報をリークしてもらう。アクセスを重視するあまり、批判精神を失ってしまう。記者は政府や企業のコントロール下に。都合の悪いことはかけなくなる。
調査報道と正反対なのが発表報道。政府や企業が発表するニュースをそのまま右から左に流す報道。日本の主要紙1面に占める発表報道は70%に及ぶ。発表報道の例。日銀総裁人事、東京地検特捜部の捜査予定、経営統合予定等。ただし、トレーダースクープとして、投資家への重要な情報という位置づけはある。つまり、一般人がスクープとして想像するのは、発表報道。ただそれは、時間が経てば出てくるものである。
本物のスクープ=調査報道。発掘型スクープ、エンタープライズスクープ、思考スクープ(例:高校野球での投げすぎ問題。10年前でもあった問題。思考して問題提起する、ものの見方としての価値がある。)
調査報道とは、専門性の高い記者の努力がなければ世の中に出てこない、公益につながる報道内容である。調査報道の例。オリンパス粉飾決算事件、エンロン事件。記者の調査により、粉飾決算が発覚。東京医科大の「裏口入学」をめぐる事件。年金記録問題。調査報道がなければ、表に出ず、我々にとって不都合なことがまかり通ってしまうことがある。
調査報道を成り立たせるためには?記者の人材流動性を高める。調査報道に対する妬み嫉みを排除する仕組み(楽しそうなことをやっていることが許せない感情)。記者の評価システム(エゴスクープは評価しない、長期的にそれをやらないと出世できない)の整備。調査報道に金が回る仕組み。
ひとつの調査報道をつくるために長期間(5年とか)かかることはよくある。その間の生活費もそうだが、調査するための費用もたくさんかかる。グリーンピアのときは登記簿を全て取得するために100万単位の費用がかかった。発表された調査報道のマネタイズも大切だが、その前のプロセスを支える仕組みも同時に必要である。

調査報道を維持するためには、明確に、エコシステムが必要。いまの日本は、調査報道を維持するエコシステムが崩壊しつつある。

調査報道を実施する上での日米の違いの例として次のようなものがある。

(1)調査報道の実施の行いやすさの日米の違い:米国は情報公開が進んでいる。米国は情報公開が進んでいるため、調査報道をする際に、公文書等の資料にあたりやすい。その分析により、調査報道としての価値がある情報が提供されやすい。日本の戦後史分野の報道は、日本側では公文書が取得しにくいため、米国の公文書の資料をベースにしている。日本では、証言ベースの取材がメインになってしまう状態。
(2)メディア活動が公益活動であるという認識の違い:米国はメディア活動は公益活動という認識が比較的ある。メディア活動が公益活動という認識があると、特定の人が出資して調査報道をするためのメディアを作るということが評価され、実現されやすい。(例:プロパブリカ
調査報道映画見るなら『シチズンフォー』『ペンタゴンペーパーズ』。調査報道本読むなら『殺人犯はそこにいる』『暴露』。

当社フェロー藤村のコメント。

その場でもお話したのですが、「調査報道は、組織ジャーナリズムだから担える」というのは、神話ではないかと思いつつあります。「パラダイス文書」の例、フランス大統領選「CrossCheck」の例を挙げるまでもなく、組織を超えた連携が新たな調査報道を生むことが見えてきている。逆に、牧野さんが指摘するように、組織が調査報道の芽をつむことさえあります。組織の力が調査報道を後押しできるのは、ある目標に向けて専念するジャーナリストを、経済面その他のサポートだとすると、別の形をした“支援の力”があってもいいのではないかと思います。

マネタイズは重要。でもそれだけでは不十分であるという指摘です。

スマニューのお金儲け担当としては、しっかり稼いで、調査報道をはじめとして、良質な情報が持続的に生まれる仕組みを、徹底応援をし続けたいと気持ちを新たにした。そして、それだけではなく、調査報道が盛り上がる環境づくりと認知度向上は必要である。

スマニューはその覚悟がある会社。それを支えるのはテンションあがるわ。


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