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ふたつの顔

朝の顔と、夜の顔。
そんな大層な話ではありません。
私はオンオフでかなり違った人格を持っていたような気がするんです。

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東京で働いていた15年くらい前、新橋で電車を降りて、銀座のはずれの職場に向かう途中、汐留のスタバに寄るのが日課でした。

最近はお店への価値観が変わったのでスタバには殆ど行かないのですが、まだあの当時全面禁煙のカフェはとても珍しくて、有り難く毎日スタバを利用していたのです。

スタバの店員さんはとても優秀で、私が何のメニューをどんなカスタマイズで頼むのか、すぐ覚えてしまいます。

でも、朝の私はとてもテンションが低くて、店員さんに先にメニューを言われてしまうことが何故かとても不満でした。
だから覚えてしまわれないように、わざわざ毎日違うオーダーをしていました。

朝の私は、できるだけ人物特定されない匿名の存在でありたかったのです。

毎日顔を合わせて、毎日同じマイボトルを持参して、匿名も何もあったもんじゃないけど、できたら知らない人の顔で対応して欲しかったのでした。

朝、弱かったからなあ。
無愛想で申し訳なかったです。

で、そんな私なんですが、仕事帰りにも時々スタバに寄っていました。
待ち合わせだったり、時間調整だったり。

午後の私は朝とは全く違う人格で店員さんと笑顔で余計な会話をしてしまうくらいフレンドリーなお客でした。

店員さんに、オススメのドリンクをわざわざ聞いてみたり。今日は暑いですね〜、なんて天気の話をしてみたり。

朝と夜に同じ人がシフトで入ってたら、あまりの二重人格ぶりにドン引きされたかもしれません。

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朝の私も特別不機嫌ということはなかった、と思うんです。人として最低限のマナーは守れるお客さんだった筈です。

けど、朝の私は他人と関わりたくなくて、そっとしておいて欲しくて、何だか自分の周りに膜が張っているような感覚でした。

この膜が取れるのは、職場に到着してからでした。

フロアの人に挨拶をして、マシンを起動して、テイクアウトしたコーヒーを飲みながら、隣の人と世間話。
そしてお仕事モードになったら、膜はすっかり取れてそこにはフレンドリーな私がいるわけです。

オンモードの私です。

あの膜が取れるまでは、私はオフモードだったのだと思います。
色んな人に気を遣ったり、笑顔をサービスしたり、そうしたことを一切排除して、オフのまま電車に乗って抜け殻のように職場に向かう。朝のスタバは、その途中にあったのでした。

店員さんはいつもとびきりの笑顔で、常連さんとして私を迎えてくれて、朝の私にはその笑顔がちょっと負担で、でも夜の私にはその笑顔が嬉しかった。

変なお客さんでごめんなさい。
悪意はなかったのです。

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