その未来に光あれ

30年前の成人式の日、新成人のわたしはバイトで式には参加しませんでした。

酒屋さんの店頭でビールの新商品の試飲販売。学校が忙しくて平日のバイトは殆ど出来なかったので、土日の単発で比較的時給のいいビール販売の仕事は気に入っていました。

バイトの派遣先によっては、余った試飲缶や宣材グッズをもらえたりするし、ビールが好きだったので、好きなものを売るのは単純に楽しかったのだと思います。

まだビールの安売りができなかった時代でした。店頭でご夫婦のおじさまを捕まえて、おまけをつけたら6缶パックの新商品は比較的簡単に売れて、四季を問わず店頭販売の仕事がありました。店頭販売の学生を派遣することが、ビール会社から小売店へビールを卸す時のおまけみたいなものだったようです。


その日は、

─新成人なんです。

ってさりげなく云うと6缶パックをもう1パック追加してくれる人もいました。

─成人式出ないの?

─式典は好きじゃないんです。

─振袖は着ないの?

─窮屈なの苦手なんです。替わりに楽器を買ってもらいました。

─あら、素敵ね。


健気な苦学生の新成人が元気にバイトしてる感じがお客様の憐みを誘ったのか、或いは自分達の娘にちゃんと振袖を着せたことに優越感を持ったのか、または偶然出会った新成人へのささやかなお祝いの気持ちだったのか、真冬にもかかわらずビールはよく売れました。

冬には珍しくなんと完売。
何だか凄く得した気分でした。


でも何で単発のバイト入れたんでしょうね。
多分、式に行きたくなかったんですよね。

小中高と地元の公立校だったのですが、微妙に在学中のキャラが違うので、それぞれの友人と同時に会うという状況がどうにも面倒でした。別々なら何とかなるのに。

代々伝わる振袖があるような家でもないし、高額なレンタルしてまで着飾りたいという欲求もありませんでした。

そして式典は基本的に苦手。偉い人の祝辞なんて多分ちゃんと聞かないし。

だから、バイトを入れて成人式に行かないことに決めた時に、何だかスッキリした気持ちになったことを覚えています。

特別会いたくない人がいたわけでもないけど、やっぱり憂鬱でした。高校は居心地が良くて自然体だったけど、中学のわたしは常に笑顔で、過剰に優しくいい人で、そして疲弊していました。まだ人に嫌われてもいいなんて思えなかった時代、いじめられない立ち位置のキープが最優先のしんどい時代の、高校以降のちゃらんぽらんなわたしにはもう演じることはできないキャラで過ごしていたのです。

まあ、行かなくて、よかった。たぶん。

わたしの例で云えば、成人式出なかったことに後悔したことはないし、振袖の写真がなくて困ったことも、その他もろもろ人生においての不都合は一切ありませんでした。記念品もあとから市役所で貰えたし。


今年も成人式を楽しんだ人と、行けなかった人、行かなかった人、色々な新成人がいたことでしょう。ちょっと騒ぐ人がいたっていいじゃないですか。色んな人がいるから世の中楽しいんだと思います。
そして仕事が忙しくて行けなかった新成人、わたしみたいに面倒で行かなかった新成人も、それぞれいつもと少しだけ違う特別ないちにちになったのではないでしょうか。


その全ての新成人におめでとう。

その全ての未来に光あれ。

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