社交的な金髪のマントヒヒ
こんにちは。
わたしは日本の田舎生まれの猿。
現在はシンガポールという多国籍で他宗教なジャングルに住んで、4年目になる。
ライオンと馬に引きずられる形でこのジャングルに起業したわたしは、先日お店をオープンした。
スタッフはわたし、
ストアマネージャーのリス、面倒見のよいシンガポール人のアンティ。なんとか1ヶ月半はこのメンバーと、グループ会社からパートタイムで他の動物を借りて、店舗を休みなく回してきた。もちろんわたしは休みなどなかった。
そこへ入ってきたのが今回の登場人物ならぬ登場動物、社交的な金髪のマントヒヒ。
ライオンと馬は、国内外に他にもいくつか会社を持っている。彼らは元々わたしのクライアントだったのだが、彼らのグループ会社の別ブランドのパートタイマーとして雇われたのがシンガポール人の金髪のマントヒヒの男の子。
別ブランドで雇われたマントヒヒだが、わたしたちのブランドがスタッフが足りないということで一時的に私たちのこの動物園へやって来た。
ライオンが、スタッフが足りないと嘆くわたしに、本人も納得してるしとりあえずこの17歳のマントヒヒを数ヶ月使ってくれる??と連れて来たのだ。
目の前に現れたマントヒヒはわたしに
"ヘイ、
俺はマントヒヒ。
あんたは?"
え〜と…??
ふう。
一度わたしは深く呼吸を整えて、
"わたしは日本人の猿だよ。
ここのCo-founderでブランドのクリエイティブディレクター。
よろしくね、マントヒヒ。"
彼は、カジュアルを超えて全くもって馴れ馴れしい。
まあ、17歳だから、そんなもんか。
わたしが17歳の時、どんなんだったっけ?
一緒に過ごせば過ごすほどに隠しきれない髪色と比例するほどにヤンチャな性格。
最初だけかな、少しだけ大人しかったのは。
このマントヒヒ、元々の性格は悪くないと思う。
ただ、華の思春期真っ只中だ。
髪も金髪にしたいし、オシャレしたいし、すきな音楽だけ聴いていたいし、好きなやつとだけつるんでいたい。
マントヒヒ、あのさ
うん、
わかるよわかるよわかるよ、その気持ち。
わたしもそうだったからさ。
わたしだって冗談でも良い子でしたなんて言えないティーンネイジャーだったよ。
わたしは彼に提供する商品の切り方を教えた。
子供に教えるように、丁寧に丁寧に丁寧に… ×100。
"グローブをつけてね、こっちの手でこういう風に商品をおさえて、こっちの手でナイフを持って、
こういうふうにこっちに引いて……"
そうすると
"いやいや、そんぐらいできっから"
とマントヒヒは初対面のわたしに言い放ち、わたしからナイフを奪い、商品をカットして見せた。
"マジかよ…"
声には出ていなかったがわたしの心は叫んでいた。
彼がカットした商品?
まるでぐちゃぐちゃ。
これだとお客様には提供できない。
まあトレーニングだから仕方ないが、
ひとつ商品を無駄にした。
これは動物たちの餌になる。勿体無いのでみんなでいただきます。
"マントヒヒ、
あのさ、ごめんやけどこれだとぐちゃぐちゃ過ぎて
お客様には出せないのよ。
そこそこの価格をお客様からいただいてるし、写真を撮りたいお客様も多いからね。
でね、一回わたしの切り方ちゃんと見てくれるかな?
切り方があるからさ。"
わたしは一つ一つの動きに説明や理由を入れながら商品をカットしてみせた。
当たり前ではあるが同じナイフを使って、断面は綺麗にスパッと商品を潰さずに美しく切れている。
マントヒヒは一瞬曇った顔をして、
"このナイフ切れ味悪くね??"
と切り返した。
よく研いだナイフのようにシャープな切り返しだ。
"そんなことないよ、みんなこのナイフ使ってるし、今実際これで綺麗に切れたよ。
少しサイズ大きいけど、こっちのナイフ使ってみる??"
と言って、
店の中で1番切れ味の良いナイフを使ってみるよう勧めた。
そしたら、
"は?
どんぐらい切れんのこれ?"
マントヒヒは自分の手にナイフをしゅっと当てて見せた。
"ちょっと!!!
そんなことしなくて良いから!!!!"
(訳 : お前そんなことしてイキんなくていいからなまじで)
わたしは彼の手を止めた。
危ない、
いろんな意味で危な過ぎる…….
なんなのこの子。
はあ….
でも、
今はスタッフが足りないからなんとかこの17歳のやんちゃな男の子に仕事を教えるしかないのだ。
レジや接客、商品説明などをつきっきりで細かく教えていった。
休憩の時間食べ物を探していたマントヒヒは
"このモールだとどこのレストランが美味しい?"と聞いて来た。
"あそこはどう?何がおすすめなん??"
馴れ馴れしいが、まあそういうところは流石に10代の男の子、という感じで30代のわたしからしたら可愛らしい。
"あそこのレストランのこのメニューが美味しいよ、
猿のとこで働いてるよって店長に言ったらわたし仲良いから割引かなんかつけてくれるかも"と伝えたら、
そこのレストランで持ち前の社交性(言い換えるなら馴れ馴れしさ)を駆使して割引してもらったランチを満足そうに買って来て、
"Quite nice" (まあまあうまいやん)
と言ってうれしそうにお店のカウンターで食事を食べていた。そういうところはとても可愛らしい素直な10代の男の子だった。
そんなやんちゃな男の子の微笑ましい一面を見ていたこの時、この後この子がとてつもない事件を起こすとは予想もしなかった。
つづく。
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