見出し画像

#1 新世界 【シロクマ文芸部】

「読む時間」は私の旅路。
それはあくまで第三者の観点。
私はTRAVELER/トラベラー。

今朝出会った彼女は穏やかな朝を望んでいた。
「目覚めがいいと一日が素敵でしょ」
その彼女の望む朝はきっと柔らかい日差しが瞼をなでるように優しいに違いない。
そして傍らには愛する彼の無邪気な寝顔があれば完璧至福。
「ジュテーム、あなた。・・・あら?かわいいお友達ね」
そうして彼女はナイトスタンドの木彫りのリスに微笑んだ。

ある午後の昼下り。
内気な少年は、世界に認められたかった。
でも、その声を拾ってくれる者はいない。
逃げ込む場所はいつでも秘密基地のある森の中。
授業なんか放り捨てて、ボクの世界へ・・・。
そうして飛び込んだところには一匹の小さなシマリスがドングリを手にして、心を読むような不思議な色を瞳に浮かべていた。
「やぁ、君。ボクの新しいお友達だね」
少年はそれまでのトゲトゲしい感情を脱ぎ捨てた。

戦うしか脳がない、筋肉バカだと言われたこともある。
そんな自分ができることはやはり殺戮だけではなかろうか。
いささか自暴自棄になっていた俺は、やはり周りが望むよう、英雄になるしかないと己の心を殺した。
人も殺した。
体に刻まれた傷は徐々に四肢を蝕んで、いつしか体に齟齬が起きた。
そんな時に大勢に狙われればひとたまりもない。
地に這いつくばった悲しい末期だった。
意識が遠のく耳元に、カサカサと落ち葉を踏む音がした。
「キミはこれ以上戦いたくなかったんだろう?」
その声に救われた。
「俺は体が大きくて頑丈なだけが取り柄だったから、戦ったんだ。人を殺したくなかった。だから、死にたかった」
「うん。もう殺さなくていいんだよ」
そう言ってかすむ視界で見たのは、小さなリスだった。

望むものが、どんな姿で現れるのかはわからない。
それが白い翼を持つ天使の姿ならば、みな疑いもしないだろう。
しかし、それが取るにも足らないと思っている存在ならば気付くだろうか?
TRAVELERは人の心を読み、旅する者。
そして運命のConductor/コンダクターと呼ばれる者。

電脳世界に現れた幸運(フォーチュン)を手にした者は、心の平穏を約束される。
その肉体が滅んでも、魂は幸せな記憶を刻んだまま。
これが新しい秩序というものか。

今週もやってまいりましたシロクマ文芸部。

曖昧模糊なものは恐怖ですよね。
私なりの近未来怪談? でした✨
みなさんもご挑戦アレ❗

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?