翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その10
ガットマン来日!2016年10月のことでした。
...実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを書いています。
(10)キングコング
【新疆で行われたこと】
日本にガットマンを招聘するのなら、The Slaughter (『消える人々』の原著)を翻訳しなければ...と取り組み始めたのだが、突然、ガットマン来日の話が転がり込んできた。
2016年10月16日に東京の神田で開催の「中国・核の脅威」シンポジウムにガットマンが招かれたというのだ。新疆ウイグル自治区(東トルキスタン)では、1964年10月16日から1996年10月16日までの間、中国政府は46回におよぶ核実験を行った(実際は50回以上と推定)。中国の核の脅威の実態を日本社会および国際社会に暴くことを目的とするもので、ガットマンはコロンビア大学で核兵器と超大国の戦略を研究していた。
日本の主催者側から、英語から日本語の翻訳者がいないため、ガットマンのスピーチ原稿の翻訳を依頼された。核問題かぁ。私が取り組み始めた臓器収奪問題からズレるなぁ、という考えはまったくの取り越し苦労だった。スピーチ原稿の『新疆で行われたこと ー 中国での核実験から継承された 倫理にもとる医療行為』はなんと、臓器収奪の内容だった。そしてこれは法輪功の問題、ウイグルの問題に留まらず、現代技術の蓑を着た恐ろしい大虐殺、と結んでいる。
このイベントに関しての10月17日付の報道を見つけた。「日本から中国への渡航移植者数は、他の国に比べて多い」(もしくは多かった)という、ガットマンの日本に関する指摘は、『消える人々』の「日本語版に向けてのまえがき」(2021年秋)でも変わっていない。 少なくとも、この指摘を否定できるような包括的な渡航移植調査は、2006年初頭の報告書以降、私の知る限りでは日本に存在していない。
【突っ伏して号泣】
イベントでは、ガットマンのアテンド・通訳も依頼された。
準備中の会場で、オマケのように片隅に座り、コンピュータをカシャカシャ打っていた。すると突然、主催者側のウイグル人の女性の方が、私の横にしゃがみ込んで、私の膝に突っ伏しておいおい泣き出した。プレッシャーに耐えかねたご様子。日本人女性のように溜め込むことがないのは精神衛生上、いいことかもしれない。この後はケロッとして、イベントをこなしていた。
しかし、この号泣を見つけた瞬間、ガットマンは「誰だ?彼女を泣かしたのは?オレがやっつけてやる!」とキングコングのように胸を叩き始めた。
「まあまあ、抑えて抑えて。大丈夫だから」となだめながらも、心の中では、おおっ!この躊躇ない正義感が彼の原動力なのか、と実感。
このブログでは、ガットマンの敬称だけ省略している。彼の本についてのブログだから敬称略は当然とも言えるのだが、個人的に私は「ガットマン」という音の響きを「バットマン」「スーパーマン」「ウルトラマン」に重ねている。
そして、幼い頃に私がテレビで耳にしていたキングコングの主題歌が、彼にはピッタリだと思う。
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