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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その21

今回から2回にわたって加害者に目を向けようと思います。(...実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを書いています。)

【涙してしまうシーン】

幼い頃、祖母の家に連れて行かれると、決まって近所の雑貨屋に行き、少女漫画を買ってもらった。祖母と母が子供に邪魔されずにしゃべれるからだ。楳図かずおさんのホラー漫画が連載されているときは、まず表紙も含めて、その部分をすべてホッチキスで止めてもらい、恐ろしい絵が一切見えないようになってから安心して雑誌を広げたものだった。「怖いもの見たさ」という言葉は私の辞書にはない。残虐な拷問の様子を翻訳しながら「なんで私が…??」をつぶやき続けていた(検閲段階で消された単語もある…)。

しかし、凄まじい拷問の話があるから、逆に人間性も浮き彫りにされる。本書『臓器収奪ー消える人々』の205ページをあけるたびに、校正の段階でも一人で涙を流していた。

「郝鳳軍(ハオフェンジュン)です。六一○弁公室から引き継ぎに来ました。お引き取りください」
 …郝は小柄な女性と二人きりになった。足は金属製の椅子に縛り付けられ、顔は横に傾いていた。照明を避けるかのように髪が目をふさいでいた。突然追いつめられた動物が逃げ口を探すかのように頭を持ち上げ、郝と目が合った。
 母だった。
「名前は?」
「孫媞(スンティ)」
 錯覚だった…悲壮な目ではあったが、親近感を覚えた。母と年齢や体格が似ていただけだった。郝は、指導書通りの尋問を始めた。

『臓器収奪ー消える人々』第五章 龍山での出来事 205ページより

郝鳳軍氏は、中国のゲシュタポに相当する法輪功迫害のために設置された「610弁公室」に勤務し、法輪功修煉者を追跡する仕事に重視していた。「海外の法輪功サイトに次々と上がる拷問の犠牲者の写真に対しても、巧妙な偽造だと結論を下していた」(204ページ)。そんな彼が、拷問でひどく痛めつけられた修煉者を世話することになる。そして、郝の内部が少しずつ変化していく。「孫には少しもおかしなところはない。普通の人間だ。孫と目があった瞬間、自分が普通の人間ではなかったと認識した」(207ページ)。この瞬間から亡命に至るまで四年の歳月を要した、と第五章は締めくられている。

【オーストラリアへ】

『中国のゲシュタポ「610弁公室』という記事にも、郝氏が孫媞という法輪功学習者と出会い、心を入れ替えたことが亡命のきっかけだったと言及されていた。この記事によると、彼は法輪功を抑圧するための国家のプロパガンダを「虚言」としたため、2004年2月に独房に30日間幽閉された。釈放後に郵便室に移され、2005年に610弁公室の書類の束を密かに持ち出し、オーストラリアに逃亡した(「ノルマと報奨金」のセクション)。人間として目覚めた者がとった行動として称賛したい。

天津の元610弁公室の職員・郝鳳軍氏
『臓器収奪ー消える人々』 第三章 p.109より
(大紀元2005年12月)

【ソルジェニーツイン??】

本著は、事実分析の部分と、証言者の語りを第一人称で描写する小説のような部分が入り混じる。「日本語の文体はどうしたらいいの?どっちかにして欲しいよね」と結構思い悩んだ。その頃、著者のガットマン氏が他の人と議論しているのを傍で聞く機会に恵まれた。その時、「ソルジェニーツインはロシアを変えた」と、彼の口からぽろりと出た。「え?ソルジェニーツインを意識してこの本を書いたんですか??」と聞き直したら、黙って首を縦に振っていた。そっかあ。文学作品なのかあ。

ガットマン氏は、いわゆる臓器狩りの報告書に対して「誰が最初から最後まで読む?」「読み応えがなければ、意味がない」と語っていた。

英語の原著は、「一旦手にしたら最後まで一気に読んでしまう」とネイティブ・スピーカーが言っていた。拙者の邦訳がそのレベルに達しているとは思っていない。ただ「歯切れの良さ」を意識して日本語を構築していった…。

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