ブラックジャックの夜・2
成田空港へ向かうリムジンバスの中。「この旅はわたしの人生の分岐点になる」そんな言葉が浮かんで、涙がこぼれた。まだ始まったばかりなのにびっくりした。 どうってことのないことばかり。でもとても大切な旅の記録。2016年1月のこと。
ブラックジャックの夜・2
おじさまは鼻歌まじりにカードを切り始める。
そしてテーブルについているたっくんとわたしにカードを配る。
「これはさあ、確率のゲームなんだよ」
低い、いい声が室内に響く。
1式のトランプの中には絵札が10~13まで。4種類で16枚。
数字の札は2~9までの8、これも4種類で32枚だろ?
ジョーカーも絵札扱い。エースも強いから絵札扱い。で5枚。
21対32なんだよな。
超文系のわたしの脳みそは、耳から入る事実のみを「ふーん」としか聞けない。
確率という、ちまちま積み上げる必然に全くときめきを感じることなく、「はあ~」「へぇ~」「そうですねぇ」という気の抜けた返事しか返せない。
理屈としてそういうものだと、ぼんやりは理解するけれど、それらを駆使した上で勝負に出ようだなんて思えないのが、全くもって残念な脳だ。
おじさまの実況中継ならぬ、実況解説がつきながらゲームは進んでいく。
ここで絵札。で。おっ、また絵札。20・いいよね、いけるよね?
こっちは10にうーん、8で18か。微妙だな。
俺はっと・・・。ああ、3に7で10か。さて、どうするか、だ。
イーモリくん(=たっくん)は、20だろ?1枚引いても1が出ることはまずあり得ないから、もちろん、ステイ、だよね。
で。カノジョ(=わたし)は18だ。1、2.3しかダメだよな。そこを勝負に出てもう1枚引くか?と言っても、かなり冒険だよな。
親の俺が10だろ?まあ、親のドボンを祈って、ステイが賢明だよね?
うんうん、と頷くわたし。
でさぁ。
おじさまは流れよくつなげる。
「俺は絵札が出れば20じゃん?エースなんか出ちゃった日にはさぁ~。」
言いながら引いた1枚をひらりとめくって
「なあ?エースなんだよなぁ~。わっはっは~」
と豪快な笑い声とともに、エースをひらひらさせた後で、我々のコインを没収していく。
カードを切っている間を見ては、オーロラ情報をチェックしたり、外の様子を見に行ったりする。オーロラは、ぼんやり見えることはあっても、前日のフィーバーとは全く比べものにならないので、その夜は「お教室」がそのまま続いていく。
おじさまの鼻歌は、BOSEのスピーカーから流れるBGMによって時に熱唱に変わる。
回を重ねて、わたしたちがだんだん、コツのようなものをつかんできたのがわかると、おじさまの解説も少なくなってくる。でも依然として、完全におじさまの手のひらで遊ばせてもらっている、子犬同然のわたしたち。
やった!コレは親、無理でしょ?
と我々がほくそ笑んでいると動じることなく、「ほらね」と言ってブラックジャックであがっていくおじさま。
マジックのような種も仕掛けもないのだけど、狐につままれる・煙に巻かれるっていうのはこういう状態のことだと実感させられる。
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写真はこの旅の中で、ロッジの敷地からたっくんが撮影。