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エグチさん(仮称)

成田空港へ向かうリムジンバスの中。「この旅はわたしの人生の分岐点になる」そんな言葉が浮かんで、涙がこぼれた。まだ始まったばかりなのにびっくりした。 どうってことのないことばかり。でもとても大切な旅の記録。2016年1月のこと。

エグチさん(仮称)

「♬小金持ちは~小金持ち~ 金蔵建~てた 小金持ち~」
おじさんは買い物が済むと、決まって歌い始める。童謡のこがねむしの歌をアレンジして。

シャイな方なので、会って間もない頃は、話しかけるのも基本はたっくんに向けてのみ。
ただ、車での移動が続き、ある意味密室の状態なので、後部シートのいづみちゃんやわたしが話に参加してツッコミを入れたり、笑ったりしていく中で、徐々に打ち解けてくださるようになった。

たっくん・いづみちゃん夫妻とエグチさんは既にお友達の関係。
移動の車中でそれぞれの近況を聞きあったり、共通の知人の話等が展開されたりする。
たっくんも、わたしを気遣って、面白い返答がきけるであろう質問をエグチさんにしてくれる。(このさりげなさが、彼の宇宙人たるところだなあと、今気づいた。この件はまた別で。)
高級車の話やら、アメリカにあるお家のお話やら。
ひとつひとつのエピソードから、エグチさんが相当なお金持ちだということがじわじわと、くっきりとわかってくる。
しかも本人自ら「ほら、オレ、大金持ちじゃないけど、ちょっと金持ってっからさー」と最初は控えめに挟んできて、その内次第に、「まぁ、小金持ちだからさー、オレ」「小金持ちとしてはもうさー。・・・・」と一発ギャグのような扱いで頻度を上げてくる。
いづみちゃんもわたしも、ケタケタとその都度笑ってしまうものだから、恐らく、40代とはいえ女性に喜ばれて、エグチさんも悪い気はしなかったに違いない。気分が乗ってきたに違いない。

エグチさんはその当時、還暦を迎えたばかりで、ある企業の会長職をされていた。
60の割には・・・というのは本当に失礼だが、背も高くガッチリした体格で、でも脚は長くてしゅっとしていて、遠目から見ると日本人ぽくない。
勝新太郎さんと裕次郎さんを組み合わせて大柄にしたような感じだろうか。
オーロラを見るためだけに、ふらっとわたしたちの旅に参加する、フットワークの軽さ、好奇心の旺盛さ、タフさ。

何より、60の割にオシャレさん。
このアラスカの旅にあたって、防寒対策を兼ねた彼の服装は、全身、モンクレールだった。
全身。
白いニットの目出し帽も、ツイード遣いのブーツも、モンクレール。
ダウンジャケットはもちろんのこと、パンツも、全身。
モンクレール。
モンクレール。

この白いニットの目出し帽が、庶民のわたしにはツボで、かつ曲者だった。
リビングのヒーターの上に、乾くように置いてあったそれを手に取って、品質表示を見てみた。
カシミアかしら?と思ったが、表示には「ナチュラルウール100%」の記載。
え?ウールなのは分かっているけど、カシミアとかアンゴラとかメリノとか、すっとばしての「ナチュラルウール」??
高級ブランドではそういうちんまいことは気にしないものなのか?
まあよしとする。
何分、白いニットだから汚れが目立つ、お手入れってどうするのかしら?
洗濯表示を見る。
もちろん、水洗いはダメって書くよね?
こんな小物もクリーニングに出すのかー?さすがハイブランド。
あれ?ドライクリーニングはダメ?
他のクリーニングもダメ?え?洗えないの??
でも干し方には指示がある。「平干し」で、と。
さすがハイブランド。もう庶民には理解不能。

60歳で全身モンクレールをさらっと着こなして、アラスカにオーロラを見に来るって、すごいよね。しかもそれがまた似合っている。
「ボク、モンクレールです!」ってバレバレではなくて、
「あれ?これもモンクレール?そしてあれあれ?それも?え?え?え?・・・全部なんですかーーーー!!」みたいな着こなしで、格好がいい。

年齢なんてただの数字だな。つくづく思った。

お話を聞いていくうちに、普段はギャルソンしか着ない、ということも判明する。
飛行機はファーストクラスしか乗らない。
国際線はSQ・シンガポール航空が彼のスタンダード。
航空業界に憧れた時期のあるわたしにとっては、サービスレベルの高いエアラインとして刷り込まれている。ひえー。
日本のとある高級住宅地にご自宅があり、アメリカとシンガポールにもそれぞれお家がある。ひえー。

ナンダカ、モノスゴイ ヒトニ デアッテ シマッタ。ぞ。

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写真はチナ温泉リゾートの中のアイスミュージアム(↓下の氷で全部作られた建物)の中で、エグチさんとふざけて結婚式ごっこをしている(笑)時のもの

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なかくきゆか
ちょっとおいしいおやつが食べたい。楽しい一杯が飲みたい。心が動く景色を見たい。誰かのお話を聞きたい。いつかあなたのお話も聞かせてください。