化粧という鎧
リップを集めるのが好きだ。
唇はひとつしかないのに、リップは多分100個くらい持ってる。
どのカバンにもリップが入っているので、出先でリップを忘れても困らない。
どれも同じものはなく、絶妙に色が違い、質感も違う。
女性が化粧を初めてした時に、手に取るものはリップが多いのではないだろうか。
私は初めて口紅を塗った日のことを今でも覚えてる。きっと幼稚園か小学校の頃だろう。
母親の真っ赤な口紅だった。
塗って鏡を見ると、顔が大人びて見えた。
衝撃的だった。
顔にひとつ色が加わるだけでこんなにも変わるのかと、魔法のように思えた。
本格的に化粧をしだすようになったのは、高校生の頃だったと思う。アルバイトを始め、外に出る機会も多くなり、プチプラコスメを集め、雑誌を読み漁り暇さえあれば自宅で化粧の仕方を勉強した。
当時私は、浜崎あゆみが好きだったので、縁の大きいカラーコンタクトを購入して、目の周りを黒く囲った。
最初はうまく書けなかったが、直にうまくアイラインをかけるようになった。
化粧の最後の仕上げはやっぱり口紅だった。
たくさんの口紅の中から今日の気分を選ぶ。
基本的に濃い色ばかりだったので、たまーに歯に付着することがあったが、やっぱり化粧工程の中で一番好きだ。
なんだか自信を与えてくれるアイテムなように気がした。
自信と同時に、私を守ってくれる鎧のような役割もある気がする。
口紅だけは泣いても落ちないからそう思うのだろう。
目元の化粧は泣けば落ちるが、口紅の化粧は最後まで残っている。
まるでシンデレラの靴のように。
私はいつも濃い色を選ぶようにしている。
迫力が出るからだ。以前に何度か書いているが、わたしは人から舐められやすい。
やはり化粧が濃ければ濃いほど、舐められることは減ると思う。
わたしが昔マックスで化粧が濃い時代、だれも舐めてかかってくる奴はいなかった。
時代がナチュラルメイクへシフトし、わたしも年齢を重ね、自然と化粧が薄くなった。
舐められたくないくせに時代には従う。
自我がなく皮肉なものだ。ノート言えない日本人。それが私だ。
しかし、口紅の色だけは濃い色を選ぶようにしてる。
理由は単純。顔色が明るく見え、鎧を纏えるからだ。
なので、コロナ禍は大変だった。
濃い色だとマスクに付着し、うすーく口の周りに口紅が付くからだ。
話が少し脱線したが、私にとって口紅は鎧であり自信そのものなのだ。
いつどこで誰に傷つけられるのかわからない時代だ。ふとした一言や言動が、致命的になることがある。
それくらい繊細なのだ。図太く見えて繊細なのだ。面倒臭いやつだ。でも、それが私だ。
周りはこれを読み気を使うだろうが。
なので私は毎日鎧を、纏って出かける。
誰にも傷つけられないように。