baggage6【至高の台湾ブックデザイン】台北は本と書店の宝庫!本に出会える場所6選
旅動画その6です。
ポッドキャストとして音声だけ聞いてもわかるように構成しております。
https://youtu.be/x5w6QjL2hc0
グルメと観光だけじゃない! ブックデザインは台湾の宝
みなさんこんにちは、baggageのユカです。
実は私は2018年からコロナ禍突入までの約2年間、事務所を東京から台北に移して、LCCで毎月通っていました。歩いて数十秒で夜市、という絶好のロケーションが、引きこもって仕事をしていた日々にコントラストを与えてくれました。またリベンジしたいですね……!
好きになると部屋を借りずにはいられない修正のある私、台湾の美食のとりこになったことは事実ですが、同じくらい気に入っているものがあります。それが台湾の素晴らしい書籍文化です。私は海外に行くと必ずその街の本屋を巡ってみるのですが、台湾のブックデザインのクオリティは、その自由度の高さと美しさから見て世界でもトップクラスといえます。
今回は私が愛してやまない台北の書店や、本にまつわるスポットをいくつかご紹介します。
●最初に紹介するのが、出版社であり書店でもある①「漢聲巷門市(Hàn sheng Xiàng mén shì)」。ちょっと読み方が難しいのでハンセン書店と言いますね。店舗はこのあとも度々話に出てくる、台北市の東側、松山文創園区の近くにあります。瓢箪型の入り口が目印です。書籍だけでなく伝統工芸品やオリジナルのお茶も取り扱っています。 私が台湾で最初に度肝を抜かれたのが、この書店の出版部門が作る、中華圏の伝統的な文化について時間をかけて丁寧に取材した書籍の数々です。凝りに凝ったブックデザインに妥協は感じられず、鬼気迫るものがあります。なんというか、中華文化を世界に伝えるという使命感にみなぎっていて、物理的にも精神的にもものすごい熱量で作られた書籍の数々は台湾の宝と言ってもよいのではないでしょうか。例えばこの「惠山泥人」という本は、中国の江南地方の民芸品である土製の人形についての書籍で、3冊組みの枕ほどの厚みがあります。表紙に使われているざらついた繊維質の紙にはずっしりとした重みがあって、まるで土の素焼きのようです。京劇の舞台の下を住まいとして泥人形を作り続けた人々の手技が、余すところなく記録され、出版までに10年もかかった力作です。「人形の種類」「道具や作り方」「職人たちの生活と談話」が膨大な素材によって再構築されている、途方も無い文化史です。「虎文化」は、がっしりとしたカバーが「虎」の字に切り抜かれています。まずこのような大胆な加工は著者の私がやりたくても、日本ではなかなか叶いません。中華圏における、虎がモチーフのあらゆる工芸品に関する情報が網羅され、どのように生活に寄り添ってきたかが手にとるように解ります。言い伝えから神格化され、吉祥の象徴となった虎たちには極彩色が使われていて極めてユニーク。もちろん製作のプロセスも事細かに解説されていて、圧倒的な密度で鮮明に記録されているため、見る者の集中力も試される一冊です。他にも毎年販売される干支のポスターブック、これは酉年ですね。切り離すのがもったいなくて綴じたままですが、古今に描かれた鶏や鶏の工芸品が詰め込まれています。そしてこれは中国の母親による家庭内の文化芸術史です。主に裁縫が多いのですが、美術史や博物館に残ることにない文化を、これまた途方も無い大量の資料から紹介されている一冊です。以前店長さんにお話を伺ったことがあるのですが、作る本の企画を決めたら担当編集者が長い時間をかけて取材の旅に出かけるのだとか。その資金は、主に翻訳出版の売り上げなどで賄っているそうです。これらの書籍は他の書店、例えば次にご紹介する誠品書店でも取り扱いがあります。
●台湾の大手書店といえば、2019年に東京の日本橋にも支店ができた「誠品書店」(chéng pǐn shū diàn)がよく知られていて、ここは雑貨を書籍の合間にディスプレイした魁でもあります。店舗ごとにユニークな特徴があって、たとえば台北の中山駅の地下にある「誠品R79」という支店は、なんと全長約270メートル。見ているうちに次の駅まで歩いてしまうという長さです。
そしてその誠品書店が手がけるホテル「誠品行旅/eslitehotel」ではホテルのフロントの壁一面が本棚という、に本の海に溺れることができるすばらしい設計。以前取材でスイートルームを拝見したことがあるのですが、非常にシックで落ち着いた、本棚のたくさんある部屋でした。ホテルは誠品書店と直結していて、松山文創園区に隣接しています。
●何度も出てくる松山文創園区ですが、ここにはたくさんの本に出会える場所としては最もユニークなスポットがあります。日本統治下時代のタバコ工場にあった公衆浴場の跡地をリノベーションした図書館、「Not Just Library 不只是圖書館」です。入場料50台湾ドル(約230円)で1日いられます。浴場そのままに、白いタイルがひんやりとして常夏の台北でも居心地は抜群です。2020年のオープンで、蔵書は2万冊以上。設計を担当した台湾デザイン研究所は台湾政府と密接に関わるプロジェクトを多く成功させていて、学校のリデザインや法定の空間デザインなども手掛けています。デザインやアート関連の雑誌や書籍が世界中から集められ、いるだけでアイデアが無尽蔵に湧いてくるので、心からおすすめします。
●小さなホテル「Owl Stay Flip Flop Hostel Garden」に併設の、小さな書店「The 1 Bookstore」には付箋とペンがあちこちに置いてあります。これは、気に入っている本に、訪れた客がオススメのポイントを書いて貼っておくことができるというもの。書店員ではなく、客同士がおすすめし合うのが面白い。台湾の皆さんはどんだけ本が好きなんだろう……という発想ですよね。大きなテーブルと椅子がいくつかあるので仕事もできますし、サンドイッチが美味しいカフェもあるから、ここに泊まれば本当に一日中外に出ないで過ごせます。最寄りは中山駅、「台北当代芸術館」の向かい側です。
●町工場がひしめく下町、中山駅近くの「赤峰街」にある秘密の花園は「浮光書店」。美しい名前ですね……小さな入り口からは想像もつかない、天井が高くて開放的な、居心地のいい書店です。カフェも併設しているのでゆっくり滞在することができます。店主の社会的主張によって選書されたコーナーもあり、こういったところに台湾らしさを感じます。ここに限らずメッセージ性の高いカフェは台湾に多く、店の片隅のフライヤーやステッカーからそれらを感じ取ることができます。台湾では政治を語ることに誰もが積極的です。何年も前にこの書店で買った世界の妖怪の書籍から刺激を受け、その後、妖怪を造形する仕事につながって行きました。(翼の王国インサート)
⚫️素晴らしいブックデザインは書籍だけではありません。雑誌の中でひときわ目立つのが「台湾版BIG ISSUE」。ホームレスの販売員が街角に立ち、手売りした中から利益を得るという、90年代にイギリスで発祥した活動モデルで、日本版も刊行されています。台湾版のものすごく洗練されたデザインには、初めて見たとき、なぜ路上でファッション誌を売っているのかと不思議に思いましたが、よくよく見たらビッグイシューで驚きました。特集記事のジャンルは多岐にわたり、読み応えがあります。 例えば年末にはカレンダーが付くのでボリュームアップします。2019年はなんとB3サイズのカレンダー12パターン付き。全て違うイラストレーターが担当しています。CDが付いてくることもあります。表紙デザインのディレクションは台湾を代表するデザイナーのアーロン・ニエ氏。支援のためだけに買うのではなく、本当に欲しい、読みたいと思わせるデザインを実現させています。私が最も尊敬する台湾のデザイナーのひとりです。台湾の路上で見かけたら必ず買うことにしていますが、誠品書店で手に入ることもあるのでぜひチェックしてみてください。
●台湾になぜこれほど魅力的な書籍や書店が多いのでしょうか。それはそもそもグラフィックデザインのクオリティが高いだけではなく、それを形にするスモールビジネスを始めやすい土壌であることが大きいと感じています。これは台湾に少し住んでみた感じた個人的な印象ですが、自分の事務所を台北で探したときに驚いたのが、住まいと仕事場が一緒であるSOHO物件の多さでした。これはもう東京の比ではありません。個性的な装丁の書籍は作るのにとても手間がかかりますが、郊外にはそれを請け負う小さな会社が多いということも聞きました。誠品書店のような大手だけではなく、独立系の個性的な書店と、両側から書籍文化を支えているように見えます。というわけで台湾ではできるだけ時間を割いて書店に脚を運ぶ価値があります。
●ところで私の台北での部屋探しから、東京と行ったり来たりの二拠点生活を始めるあたりを詳しく書いた「月イチ台北どローカル日記」、もし興味がありましたらそちらもご覧ください。詳しくは概要欄を見てくださいね。 みなさんも台湾の大好きなものがあったらぜひ教えてください。それでは、また!
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