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🌸ミイラが歯医者と笑った日

大人になるにつれ大笑いをする機会が減ってきた。

同時に、大笑いをしている大人もなかなか見かけない。

しかし私はこないだ
歯医者さんでそんな状況に遭遇した。

わたしの前歯は上の4本が、もう神経を抜いて差し歯になっている。

月日がたち黒く変色もしていたから
いつしか歯をむき出して笑うことができなくなっていた。

自分への投資はあとあと!

そうやってはきたが、仕事の時も友人といるときも
前歯を隠しながら会話をするという
独特の笑顔と独特のしゃべり方をする女になっていた。

このままではいけないと
ついに、新しくきれいにしようと決めたのだ。

治療の日、診察台に上ると

「じゃあ、古いのとっていきますね~」

ウインウインウインウイン

先生が丁寧に治療を始めた。

長い間使われていた古い差し歯はとりはずされ、
その下に隠されていた
わたしの本来の歯が姿を現した。

差し歯の土台と化したその歯たちは、
ベロでの感触だけでも、か細く長さもまちまちだ。

「はい、かくにんしてくださーい」

先生に手鏡を渡されて
わたしは自分の本当の姿と対面することになった。 

恐る恐るのぞきこむと
1㎝もないような細い骨がツララのように4本ぶら下がっていた。

説明をきく間しばらく
この現実を見続けなければならない。

たえられず、思わず声が出た。

「うわあ…ミイラみたいですね。歯って大事ぃ。」 

もう自分をディスるしかなかった。

歯を大切にしよう

こんな姿の人に言われたら
それ以上の説得力はあるだろうか。

すると、横に立っていた先生が
一瞬驚いたような顔をして、その顔が真っ赤になったかと思うと

[ぶっっっ、わー---っっはっっっはっっっはー---!!」

ものすごい笑い声が診察室に響き渡った。
先生はひじに口を当てて大笑いしている。

たぶん一瞬、笑ってはいけないとおもった先生の躊躇が
真っ赤になった顔でわかった。

ミイラというフレーズと、今目の前にいる患者とのリンクがドツボにはまったのだろう。

「そうですねぇ!!」

先生は目に涙をためながらそう言った。

わたしも笑ってしまって
説明を聞くどころか
ミイラの歯をむき出して思い切り先生と大笑いした。

少し落ち着いて治療が進むと、
新しい差し歯ができるまで
笑わないどころかしゃべることもできなくなるのではと
また不安になったが

先生はとても上手に仮の歯をつくってくれた。

それから無事、差し歯は完成し、
白くてきれいな歯が整然と並んでいる。

鏡で思い切り笑ってみた。

とても気持ちがよく、前向きな気分になる。
何の躊躇もなく自然と笑えるなんて本当に久しぶりだ。

あの時の歯医者さんの大笑いは
長年歯を見せずに笑っていたわたしのもやもやを吹き飛ばしてくれた。

ミイラの歯で思い切り笑えたから
心がなんだか軽くなった。

歯を大事にすることと一緒に
笑うことの大事さもあの時間がそっと教えてくれた気がする。

歯は大事にしよう。
大笑いができるように。

定期的にクリーニングに通い、
電動歯ブラシと歯ブラシを使い分け
歯間ブラシ、フロスを愛用する。

歯のケアを日常に取り入れるようになった。

もう遅いかもしれないけれど 
とにかく今ある歯を大事にしたい。

子供たちも、いつまでも
きれいな自分の歯で思い切り笑えるように

ミイラと歯医者さんとの大笑いを伝えていきたい。



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ゆかみん
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