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ダムタイプ:坂本龍一がコロナ禍の中集めた音に彷徨う
DUMP TYPE | 2022:remap
ARTIZON MUSEUM
会場に足を踏み入れると、そこは光のない世界。四方の壁には、ドットの粗いレーザー文字が打ち出される。レーザーは、レーザー装置から発射され、鏡が付いた回転する支柱で反射したものが映っている。よく読むと、全てが疑問形だ。
私が最初に目にした疑問文は
When you look at the rising Sun, what Ocean is before you?
だった。
「んー。太平洋?」と頭の中で返事をする。
答えてしまったことで、一気にダムタイプが作った空間に参加することになった。
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振り返ると、皆が何かをのぞき込んでいる。床のミラーに映ったレーザーパネルの文字が織りなす深淵を。
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第59回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展日本館に展示されたものを、アーティゾン美術館に合わせて再配置したもの。当時日本館中央に設けられた天窓やハーフミラーの柱を、ここにレプレイスする際、この表現方法にデザインしなおされたとのこと。ヴェネツィアのを見ていないので何とも言えないけれど、このリプレイスはまた新たな衝撃を産んだんじゃないかな。まるで深淵をのぞき込むかのように、皆が床の鏡に映った文字を読んでいる。
のぞき込んでいる私たちはどこの人なのだろう。と書いたが、実は東京。いやいや、アーティゾンミュージアムは東京だよ? そういう話ではない。
このエリアで耳を澄ますと、聞こえるか聞こえないか、いや、ほぼ聞こえない音がある。それが、この回場を取り囲むもう一回り外にあるスペースから発生している。
そこには、東京を0度として、その都市がある方向にスピーカーが設置されている。北の方には、北極の向こうにあるニューヨーク、東にはサンチャゴ、南にはメルボルン、西にはテヘランやロンドンなど。
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スピーカーからは、雑踏音が聞こえる。そして、音源はなんとレコードだ。
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この外側のエリアから、壁に囲まれた内側のエリアを、隙間から覗き見ることができる。
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少し離れたところに、もう一つの作品がある。そこでは、人々は上を見上げる。私には、さきほどの空間とつながっているように感じた。星新一の穴のように。
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文字や、レーザー、音があると、私たちは必死にそこから何か意味を読み取ろうとする。質問には答えようとするし、レーザーが当たれば、呼応している反対側の壁の文字との照合をしてしまう。坂本龍一の声かけでコロナ禍の中世界中から集められた雑踏音でさえ、謎解きのように聴き込んでしまう。
世界とは、地理とは、そういうものではない。
デジタルのフィルターを介して得た情報に、毒された思考方法を省みる機会になった。
追伸
AirPodsをBluetoothにつないで装着したまま会場に入ると、レーザーに干渉された鋭い雑音が楽しめます。多分、偶然です。私はそれを楽しみましたが、医学的には推奨されないかと。耳の悪い人はなおさら。そしてAirPodsが故障する可能性もあるかも(笑)