私の言葉
一冊のノートと
一本の万年筆を買い
家に帰りテーブルの上へ
美しく飾る
筆を取り
かちんと小気味良い
その蓋を開けると
先から滲み出る
黒い血
真下へ傾ければ
そのまた下に広がる
真綿の白へ
無数の人や自然や空間を
描くものだと
思っていた
だが血は凝固し
頑なに放出を
躊躇っている
風が窓から吹き込み
青緑の香りが
真綿を吹き散らす
うっかり滑らせた
手先から
ことりと情けなく
落下する筆先
地へ葬られ
今更ながら思い出したように
どくどくと音を立てて
血を吐く
ああそうか
私には
書くことなど何も
なかったのだ
書けることなど
何も
血はやがてひとつの
文字を浮き上がらす
それは不可解で
見たこともない
それが私の
書くべき
言葉
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