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片目のヤモリ

真冬の闖入者

毎年冬から春に変わろうとするこの頃に、少しの間うちに住んでいたヤモリを思い出す。出会いは、10年近く前のことだ。
それは真冬の1月、家の1階の軒先の木製テラスにつながる部屋の窓だった。1匹のヤモリが、まるで家に入れてくださいと言わんばかりに網戸にへばりついていた。その前日の夜にカーテンを閉めた時はいなかったはずで、突如現れた。

私はちょっと怖くて、窓ごしにしばらく観察することにした。その年は例年以上の暖冬で、その日も木漏れ日差す穏やかな日だったけれど、ヤモリが元気に活動するほど暖かいはずはなく、へばりついたままで身動きひとつしない。死んでいるみたいだった。そしてよく見ると、片目がなかった。
季節外れに、突然現れて、片目もなくて、と思っていたら私はどんどん怖くなり、どうしていいかわからず、とにかく部屋を離れて現実逃避することにした。

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