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安心して穏やかに最期まで過ごせる地域医療を!新田医院 "新田智之"さん

誰もが人間らしく、そして尊厳を取り戻し、その人らしく最期まで穏やかに過ごせられる医療を目指される新田智之先生にお話を伺いました。

【新田智之さんProfile】
出身地:北九州市門司区
活動地域:北九州
 経歴:
昭和48年  門司区生まれ
平成4年 小倉高校卒
平成11年   福岡大学医学部卒
外科医師として関連病院で研鑽
平成21年 医学博士号を取得
平成22年   戸畑共立病院 外科医長
平成26年   戸畑リハビリテーション病院 緩和ケア医長
平成28年   医療法人新田医院 副院長
令和元年   医療法人新田医院 院長 
資格: ⚫︎緩和医療認定医 ⚫︎外科学会専門医 ⚫︎癌治療認定医 ⚫︎エンドオブライフ・ケア援助士、ファシリテーター ⚫︎医学博士 など
座右の銘:一期一会

Q.どのような夢やビジョンをお持ちですか?

新田智之さん(以下、新田 敬称略):現在の日本では年間の出生数が約90万人に対して、亡くなる方は約140万人と超高齢少子・多死時代に突入しています。そしてそれに呼応するようにテレビや書籍でも終活、平穏死、看取り…などのテーマが増えており、「死」というものが身近な存在になってきたように思えます。
しかしどんなに医学が発達しても全ての病気が治るわけではありませんし、どんな人でも必ず死は訪れます。この超高齢多死時代はさらに進んでいくことが予想されますが、地域で最期まで過ごすために関わる人が不足していることが問題になっています。
医療や介護職でも実際の死を見ずに育った人がほとんどの世の中ですから、当然看取りに対して苦手意識を持っている人が多いのです。
私は死が差し迫った、いわゆる“人生の最終段階における人”でも穏やかに過ごすことができる地域になって欲しいと考えています。
戦後から今日まで日本の社会は“病院文化”です。患者さんは悪くなったら病院に入院することが常識であり、家族も親戚も入院させていれば安心、長らくそんな時代でした。しかし治らない状態や病気だった場合、本人は病院ではなく家で暮らしたいと思っていても、家族に迷惑がかかるから仕方なく病院に入院、そしてなかなか状態が改善しないため退院できずそのまま病院で最期を迎える…、本人の意思がなかなか尊重されない時代でした。
しかし今からは違います、本人の意思決定を支援する世の中に急速に変わってきているのです。
そのためには受け皿となる地域が本人の希望する場所で過ごせるような社会を作っていく必要があるのです。
私は在宅緩和ケアを通して本人が望む場所で望む様に最期まで過ごして頂けるような医療を心がけています。「病気や状態が悪くなった際には入院は必要ですが、もし治る見込みがないのであればその後の時間を病院ではなく住み慣れたところで過ごしてみませんか、その際は地域が支えます」、「病院は生活する場ではないので“時々入院、ほぼ在宅”を目指しましょう」とお話しています。
地道な活動を継続して実践すればやがて地域が変わり、そして文化までも変わるのではないかと大それたことを考えています。

記者:"地域で支える"とはどんなイメージなんですか?

新田:「地域包括ケアシステム」という言葉がありますが、分かり易く言うと自分の住んでいる中学校区くらいの範囲で医療も介護も全て完結できることです。特に人生の最終段階をわざわざ自宅から離れた遠い所に行って過ごすのではなく、なるべく住み慣れた所で慣れた人とともに過ごす。そのためには関わる全ての人が考え方を変えていく必要があります。先に話した病院文化=治す医療です。最期まで治す医療を続けると逆に苦しくなってしまいます。
これからの時代は“治す医療”からたとえ治らない病気や状態でも苦痛を和らげ寄り添う“支える医療”へのギアチェンジが必要なのです。 そして医療や介護に携わる人はこの考えで連携していくことが大切です。一人のスーパーマン医師だけでは地域医療は長くは続かず普及しないと思います。医師以外でも最期まで自信を持って関わることができる人を増やして、さらには病院と地域が垣根低くもっと身近な関係となることが大切だと思います。
住み慣れた地域で医療や介護を受ける事ができ、望む場所で“お看取り”まで実践できることは本人にとっても家族にとって最高と言えるでしょう。

記者:本当にそうですね。とても大切なことだと思います。

Q.今後の目標計画や、現在具体的に取り組まれていることはあるのでしょうか? 

新田:人生の最終段階を自宅で過ごしたい患者さんがいた場合、その方に関わる人員は20人以上で連携という事もしばしばあります。しかしその20人以上が一同に集まることや電話などで一気に連絡を取り合う合うことは不可能なため当院では2年前からインターネットによる連携、Medical Care STATION(MCS)というシステムを活用しています。
在宅医療で連携している職種には、訪問看護師、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士、栄養士、理学・作業療法士、言語聴覚士、ケアマネージャー、ヘルパー、福祉用具担当者など多岐に渡りますが、難しい医学用語ではなく多職種の誰もが分かる言葉(共通言語)を用いて情報を共有し、さらに方針の統一を図っています。
例えば私が訪問診療時に患者さんやご家族に大切なお話をした際にも、会話内容をこれに記載しておくことで同席していない他の仲間にも分かるようになっています。また私の医療内容、その根拠となる考え方もこれに示しておくことで全員のレベルアップにも繋がります。
このシステム導入後より関わるメンバー誰一人たりとも蚊帳の外にならず、またケアの質も高まってきていると実感しています。
そしてこれからの時代に大切なのは患者さんの意思決定を支援する事です。
Advance Care Planning:ACPと言いますが最近では“人生会議”の呼称が使われるようになりました。元気なうちから患者さんおよびご家族に医療・介護職が必要な情報を提供して今後の事を話し合っておくことです。結論を急ぐのではなく何回も話し合う過程が大切であり、自身が受けたい医療や受けたくない医療などを事前に話し合っておく事で、仮に将来意思表示ができなくなったとしてもなるべく自分らしく最期まで過ごせるようになるのではないでしょうか。
私はなるべく時間を取ってこの人生会議を実践するように心がけています。
最近では臨床宗教師の知り合いがいますが、将来的にはこの方々にもチームのメンバーに加わって戴きメンタルケアでの更なるレベルアップも図れることができればと考えています。

記者:とても素晴らしい取り組みですね。

Q.新田先生がいつも大事にされている事や活動理念などお聞かせください。 

新田:私が尊敬している在宅医に横浜市の小澤竹俊先生という方がおられます。先生は看取りに対して苦手意識から関わる自信に変える、その人材育成する事を目的とした“一般社団法人エンドオブライフ・ケア協会(ELC)”を設立され、これまで全国で多くの医療・介護職の方が “援助者養成基礎講座”を受講されています。
人生の最終段階の人は身体的な苦しみだけではなく、精神的、社会的、スピリチュアルな苦しみなどもあります。「苦しんでいる人は自分の苦しみを分かってくれる人がいると嬉しい」をモットーに先ずは苦しみをキャッチする感性を養い、1対1での関わり、そして多職種での関わりなどを学び質の高いケアを目指しています。私と連携している多職種のメンバーにはほぼ講座を受講してもらっています。先も述べましたが共通言語で情報共有と方針統一ができ易く、しかもこの分野を継続して学習ができる事が特徴です。
私は北九州地区で継続学習を行う場として協会認定の学習会“ELC北九州”をファシリテーターとして定期的に開催し、毎回50名規模で一緒に学んでいます。最近ではお陰様で様々な所に呼んで戴けこのELCの考え方を伝えているところです。
先日開催された区医師会での講演には医療・介護職150人超の方々にお集まり戴きました。
一方的な講演ではなく参加者の皆さんとグループワーク形式の会にする事でより印象深い会となり、私自身も参加者から新たな知見を得る事ができています。緩和ケアは少し前までは最期の医療とか痛みを取る医療と言われていましたが、今は癌だけではなく命に関わる人が抱えている苦痛を減らして、人間らしく、その人らしく最期まで穏やかに過ごせられる事とされていますが、まずは医療・介護職の皆にこれを知ってもらう必要があるのです。
何度も申しますが在宅医療での緩和ケアを更に充実させるには私一人の力では限界があるため、同じ思いで行動ができる仲間を増やす事が急務であると考えています。

記者:素晴らしい思いですね。共通の意志や思いを持って行動できることの大切さを感じました。

Q.最期まで穏やかに過ごせる緩和ケアを充実させていきたい!という思いのきっかけや背景を教えていただけますか?

新田:父は悪性の縦隔腫瘍で苦しむ祖父を見て医師になり、勤務医を経て36年前に地元で当院を開業しました。地域の人に慕われている父は憧れでしたが私が医師を目指そうと思った最初のきっかけは、小学1年の時とても可愛がってくれた祖母が胆管癌の終末期で自宅に帰ってきたことです。
癌で痩せた祖母は穏やかではなく苦しそうな表情でしたが、今にして思えば当時の少ない医療資源や今ほど良い薬のない中で父はよく頑張って苦痛を減らして在宅療養を継続させていたのかと感心します。しかし病状進行による衰弱が幼い孫の目にも明らかになった頃、病院に戻りそれきり最期まで会うことが許されませんでした。
当時は亡くなる姿を小さな子供には見せない、死を忌み嫌う世の中だったから当然だったのでしょう。今では高齢の方で在宅看取りの際にはなるべくお孫さんにも役割を与えて参加してもらっています。
私も父と同じ様な経験から祖母の病気で苦しむ人を救いたいと思い医師になりました。
消化器外科医となりましたがその中でも胆膵系を専攻したのもその影響でしょう。
しかし外科医師になって10年を超えた頃に施設入居の身寄りのない認知症の高齢女性との出会いがありました。貧血の精査で早期胃癌である事が分かりましたが、認知症のため病気のことは全く理解できないも無症状で特に困った様子のない状況に、「この方に手術はしなくても良いのでは…」と思ったのですが、ほとんどの医師にとっては“死=医療の敗北”が当たり前の時代でしたので、先輩医師は「認知症であろうが見つかった以上は癌と積極的に戦うべき」の価値観が強く、手術前のカンファレンスでは私の手術反対の意見は通らずに手術の方針に決まったのです。当然、その方針に決まった以上は主治医として一生懸命に治療に当たり術後経過も問題なく退院することができました。しかしその高齢女性は食べることがとても大好きで認知症になってからはさらに早食いだったようで、施設に戻られた後も術前と同じような食べ方をしてしました。胃を切った後はしばらく分割食と言い一回量を少なく回数を増やすのですがそれを理解できず、ものすごい勢いで食べられていたそうです。その結果、吻合部(切ったあとのつなぎ目)に負担がかかってしまし遅発性の縫合不全による腹膜炎を併発して再入院になりました。すぐに再手術を行い多くの医療を提供しましたが一度落ちてしまった高齢者の全身状態はなかなか上昇せず、結局は術後2カ月程で苦しみながら亡くなってしまったのです。「もしあの時に手術をしなければもっと長く生きることができたのではないか?…、高齢女性の食べる楽しみを私が奪ってしまったのではないか?…、最期は苦しむばかりだったがもっと穏やかにする方法はなかったのか?…」と日々考え落ち込みました。
その頃に幼少期に経験した祖母の在宅で苦しんでいた顔を思い出し、病気を直すことだけではない、苦しみを和らげるためには積極的な治療以外の道も知るべきだろうと考え、40歳の時に外科医から緩和ケア医に転身しました。
今思えば、幼少期に可愛がってくれた祖母とその高齢女性はリンクしていたように思えます。

記者:そんな背景があられたんですね…。
すごくショックだったことと思います。
だからこそ、患者さんの思いを大切にし、安心して穏やかに最期を迎えられる医療を目指す新田先生がいらっしゃるのですね。

Q.では最後になりますが、今の時代に生きる人達に何かメッセージはありますか?

新田:今の時代は在宅看取りを希望してもそれが実現できる方は20%以下だと言われています。
私は地域に戻ってから外来と在宅医療で3年間で150名の方の人生の最終段階の方に関わり、その中で80%にあたる120名の方を在宅でお看取りさせて頂きました。この高い割合が維持できているのは多職種の“支え”あったからだと思います。
在宅医療における私の信念は、開始期は“不安を取る”、療養期は“安心を与える”、最期に“納得できる”を実践する事です。
人生の最終段階にある人は尊厳が減っています。私はなるべくこの尊厳を取り戻すことで人は穏やかになれると信じています。
これが当たり前にケアできるチームを作り、私の活動する地域と他地域が繋がってやがて太い線になれるよう広がって欲しいと願っています。
先に述べたELCの地域学習会は全国各地に存在しており、既に他地域の学習会と交流しており繋がりができつつあります。
遅ればせながら政令市の中で在宅医療が遅れている北九州市で地域医療の変化モデルを創っていきたいと思っています!

記者:今の時代の中で、尊厳を取り戻し穏やかに最期を迎えられる事は誰もが願う事だと思います。貴重なお話しありがとうございました。

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新田智之さんに関する情報はこちら
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HP:http://nittaiin.com/doctor

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【編集後記】 
今回、インタビューを担当させていただいた三浦、多田野、岩渕です。
とても暖かく、人の命に対する尊さや思いを大切にされる新田先生。
お話しを伺う中で、どこまでも謙虚でありながらも、誰もが尊厳を取り戻し、穏やかに最期を迎えられるような地域社会を人材教育から取り組み、チームプレーを大切にして医療や介護に変革をもたらそうと実践されるあり方に強い意志を感じました。
これからの更なるご活躍に目が離せません!
貴重なお話しありがとうございました!

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この記事はリライズ・ニュースマガジン“美しい時代を創る人達”にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36