第三話シノノメナギの恋煩い
視力が低いことが助かってか本来の姿を薄目でみて現実逃避して湯船に浸かる。
わたし自身男の体を持って男という戸籍を持ちながらも心が女の子と自覚したのは結構早い時期だった。
両親がずっと不仲で小学校に上がった頃には離婚、母方の祖母に育てられていた。
その頃に気づき、祖母もわたしの考えを尊重してスカートやワンピースを与えてくれた。髪の毛も伸ばした。中学の頃には周りの友人や大人の理解があり女子の制服を着ることができた。
今では珍しいことだったのだが顔が広い祖母が仲間達を募り声を上げてくれた。
そのおかげで私は高校に進学しても女子の制服を着ることもできたし、周りも理解してくれる人たちが多く、今の図書館でも女性の格好を許してくれて……今に至る。
もともと美人の母に似て(中学上がる前に母は恋人の家で突然死してしまったけど)体毛も薄かったおかげで髪の毛を伸ばして女の子の服を着ていればメイクもしなくても女の子として違和感がなかった。
しかしだんだん体も大人になるにつれて女の子じゃない、女じゃない、男の体になっていく。
喉仏が目立ち髭も生えてきて筋肉も付いてきて……風呂場に入るたびに嫌になった。
下着は女性物を着ている。着替えも素早く。現実を見たくない。
だったら性転換手術すればいいじゃないかと言われることもあったが痛そうだから辞めた。
それに特に胸にはそこまで執着は無かった。
むしろ胸が嫌だった。
母が私の幼少期に家の中にいろんな男を連れ込んではエッチをしていたからその時に揺れる母の胸が恥ずかしくて、気持ち悪くて。
だから体はそのまま。祖母にも反対された。服着てればいいのよ、って。そうなのか。
メイクして、髪の毛伸ばして、おしゃれをして。女性としての人生を楽しんでいた……のだが。
いかんせん、モテない!!!!
彼氏が今までできたことがないのだ。
かと言って女性は友達までしか見られないし、やっぱり私は男が好きで。
なのに彼氏ができない! もてない!!!
わたしは一気に浴槽に頭の先まで入る。入浴剤で濁っているから体は見えない、見ないつもりだ。
やはりわたしが男、だからってことなのだろうか。
周りに恵まれたお陰で女として生きていけたのに、女としての幸せ、(結婚はもちろん出産は諦めているけど)恋人ができない。
またいろいろ考えていたら湯船に浸かり過ぎてしまった。
「梛ったら、またもーそーしてたでしょ」
横たわったわたしを寧々がうちわで仰いでくれている。
妄想女子、それも玉に瑕。
いやそれ以外にも理由があるはずだ、彼氏がいない理由。
でもこないだの合コン……はなんだったんだろう。まぁメアド交換して少しメールしてデートはなかったけどね。
→続く
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