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第四話 シノノメナギの恋煩い

なんだかんだで今日も今日とて仕事だ。この図書館にはもう長く勤めている。

大学卒業してすぐだ。地元の図書館。
大学の時に研修としていた頃からだから……うむ、長い。

好きな本に囲まれとても幸せである。最新刊を利用者の方よりもいち早くスリスリ、いや、拝むことができる……だったら本屋でもよかったのであろうが図書館で、というのがわたしの夢であった。

カウンターでの貸し出し作業、イベントの企画運営、展示物の製作、おすすめ本の選出、製本……多岐にわたる業務のおかげで毎日充実している。

仕事は充実してるけど恋人が……といつまで自分を卑下しているのか。

でも出会いは結構ある。
利用者が多いがその人たちと恋人だったら、わたしのことを好きだったらなんて。あらぬ妄想を抱く日々。

この妄想が日々の業務にプラスされているのもあって仕事も続けられたと思う。

間違っても他の司書もこのような妄想を抱いてるというわけではないが少なからずいるかもしれない。
でもそんなこと言うとまじめに業務をしている他の全国にいる司書さんに申し訳ない。


「またぼーっとしているわね、梛」
「アッ。すいません!」

カウンターの準備をしている後ろからやってきたのはわたしの先輩、夏目……夏姐さん。
バツイチ3人の男の子のママだ。

「開館前に返却ポスト行かないと」
「はーい! 忘れてましたっ!」

わたしは慌ててカゴを持ってエレベーターに乗り込む。

階下に降りると
「ほぉー! おはよう! シノノメナギくんっ」
「おはよう、でんさん!」
警備員のおじさんとすれ違う。なぜかこのおっさんはわたしをフルネームで呼ぶのだ。
わたしだけ、何故か。

「昨日の件は考えてくれたかね?」
こっちは急いでるっていうのに! ……て、昨日の件……昨日の……なんだっけ?

「今は急いでるので、またー!」
と適当に接するが良いのだ、おじさんには。

開館10分前にわたしが今日やる作業は図書館の門前にある返却ポストまで行き、本を回収すること。
8階建ての施設で一階は喫茶店や市のイベントフロア、地下には駐車場がある。

返却ポストにはどっさり……昨晩の閉館後にうちに返された本たちを台車に乗せていると……。

あ、やっぱり今朝もいた。

図書館の門くらい背の高さのあるおじさん。
門前に立つ、通称・門男。
ただしわたしの中だけの通称だ。

大きな門と同じくらいの高さの初老の白髪男性。平日の朝早く、ここ2、3年はほぼ毎日来ている。
それまでは土日にしか見たことがなかった。
つまりこの男は2、3年前にきっと定年退職したであろう男だ。(あくまでもわたしの推測だ)

朝一番、9時開館に彼が来てやることは図書館にある新聞を読むことだ。
家では新聞を取らないだろうか。私も新聞は取っていない。

この門男以外でも新聞を読みに来る人は多い。大抵彼くらいの年代か土日は働き盛りの30.40代くらいの男性だ。

そして彼はわたしの見た限り、新聞を読み終えたら本を見ずに下に降りて一階の喫茶店でモーニングを頼んでコーヒーを嗜んでいる。

ボーッとどこか眺めながら。

業務の傍ら一度だけ彼の後を追っただけだからルーティーンなのか分からないけど朝からそんなにのんびりできるものかと。羨ましい。 

しかし残念ながら指輪をしている時点で既婚者とわかっていたが、彼に挨拶ということで毎朝声をかけて
「おはようございます」
と発する低い声が返ってくるのが私の楽しみなのだ。
門ほどの大柄な男、白髪、眼鏡、昔は絶対イケメンでモテたであろう顔立ち、ファッションセンス、全てがパーフェクトなのだ。

こんな彼を朝から野放ししている奥様はいったいどんな人なのか。彼と同じ歳なのか、まだ若いから働いているのか。

にしてもあの身長、190近くあるだろう。172センチのわたしは常に上を向く。首は痛くならないか? 彼と一緒にいると。
歩くときは凸凹カップルだなんて言われそうだし、そもそも年齢も全く違う。歳の差カップルどころか親子でないか?

そして付き合ったとして、キスをするときは……大変だろう。ましてやセックスのときは……。

ってしたことないからわからなーい!

でも自分より背の高い人と付き合うなんて……大きな腕で包まれて。
自分よりも年上の人、たくさん甘えて、たくさん頼りたい。
既婚者。奥さんを気にしながらも2人甘い密会。だめだ、そんなこと……。

五話に続く

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