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閑話 シノノメナギの恋煩い
時は今に戻る。
スタジオではスポットライトで眩しく一般の観客はいるけど緊張もあってか彼らの表情はぼやけてしか見えない。
「あー、そういうこともありましたねっ! お恥ずかしいですわぁー」
と大袈裟に司会の鯉鯉さんが大きな声で話すと観客たちはドッと湧く。
素人のわたしたちのどうでもいい恋愛話も面白おかしく広げてくれる、さすが人気新鋭落語家……!!!
先ほどはわたしのことを話したラジオ音源が流れて聴いてる私まで小っ恥ずかしくなってきた。
「ほんまですって、ナギさんが美しすぎて……ほらほら、浩二くん顔怖い」
浩二、常田の下の名前なのだがわたしはずっと常田呼びである。
「浩二さん、て呼ばんのですか?」
と聞かれたが元は男であるわたし、性転換手術をすることもないし戸籍は男のままだからパートナーシップ制度で一緒になるのであって普通の男女見たく結婚はできないから苗字はそのままだ。
だから常田、と呼ぶ。
ってそんな重いことをせっかく場の雰囲気を温めてくれた鯉鯉さんに申し訳なくて
「常田、と呼ぶのが慣れてて」
なんて言ってみた。
「僕はずっと下の名前で、ナギって呼んでます。互いに慣れた方で呼び合いたいなぁって。一度も浩二なんて呼ばれたこともないし……」
そうそう、言ったことないわ。今更浩二、浩二さんーって変な気もして。
「まぁ、目標はありましてね。夜の時には浩二……って呼ばれるのが、目標です」
!!!
常田ー!
鯉鯉さんは一瞬固まったけど
「ですよね! ラブラブな時にゆうてほしいですよねー! 浩二ってー」
と言うとスタジオも一気にドッと湧いた。
もぉ……!!!!
でも確かに常田っ、て言いにくい。
浩二ぃーって言った方が……いい、のかなって一瞬考えちゃったじゃない!
横を見ると常田がニャーって。そのニャーだが弱いのよっ。
「あ、そうそう……周りの家族もですがお互いの家族さんにはどう今回の結婚を?」
下ネタから切り替え早っ! まぁ台本通りですものね。
そうよね、家族の話も避けられない。
第二章へ続く