第十六話 家族だもの
二人がパートナーシップ協定を結んで数ヶ月後、現実を知ることになる。
李仁が倒れたと湊音は勤務中に連絡が来てタクシーで病院に向かう。
朝、李仁は普通に料理をしていて何も変わらない様子だった。
今まで大病も怪我どころか風邪でダウンしない李仁であったが……。
病院に着いた湊音は受付に行く。
「……槻山李仁は!」
「しばらくお待ちください……失礼ですが、ご家族の方で?」
受付の人は湊音をじっと見る。彼はあがる息をコントロールして落ち着かせて
「家族です! 李仁は僕の夫です!」
と、咄嗟に言ったもののなんかしっくりこない。
教えてもらった病室に慌てて駆けつけると点滴をしてベッドに横たわる李仁がいた。少し顔色が悪い。そして頭を打ったのか包帯が巻かれている。倒れた時に打ったのであろう。
「ミナ君……」
「李仁ぉおおおお」
湊音はボロボロに涙を流し、李仁に抱きついた。
「大丈夫よぉ、心配かけてごめんね」
李仁は過労で倒れたと診断された。他に異常はなく、命に関わることでもないそうだ。
昼は書店本部、夜はバーテンダーとして働く。李仁は好きで働いているものの、かなりのハードワークである。
夜になって湊音も落ち着き、李仁の隣で付き添う。
「あとね、お医者さんに禁煙外来すすめられちゃった」
湊音の心配をよそに笑顔でいる李仁。しかし湊音は暗い顔をしている。
「……そんな顔しないでって。人間ドックも毎年受けてて異常もないし、まぁ、ちょっとあそこが元気ないけどぉ」
と笑わせようとしても湊音は笑わない。それどころか涙ぐんでる。
「もう嫌だよっ、死なないでっ」
「だからわたしは死なないって」
「もしなにかあったとしたらっ!」
湊音の両目からボロボロと涙が流れ続ける。
「大丈夫、パートナー協定結んで私たちふうふだし。家族だし。互いに何があってもなんとかなるんだから。貯金もしてるんだし、心配しないで」
「金とかそういう問題じゃない! 李仁そのものがっ、いなくなったら……」
李仁は湊音の頬に手をやる。
「私いなくても周りを頼って。貴方は甘え下手なんだから。みんな守ってくれるわよ」
付き合い下手でもあり友達の少ない湊音だったが、李仁が自分の友達を湊音に会わせていたのも、そういう理由があった。
「って、私はまだ死なないから。仕事も調整しなきゃね。バーテンダーの仕事もやっぱり引退ね。来年40だし無茶はしちゃだめね、お互い」
まだ泣き続ける湊音だった。
李仁は検査入院も含めて数日で退院した。特に後遺症も無く、頭の傷も問題ないとのこと。二人はほっとした。
「みーな君」
李仁に後ろから抱きつかれて驚く湊音。首筋に無数のキスをする。
「やめてよぉ」
李仁はやめない。腰に手を回して服の中に手を入れてくる。
「あの頃も夜激しく愛し合ったじゃない」
「あの頃はあの頃! もう寝るよっ」
と振り向くと、李仁がキスをする。湊音は堪忍してそのキスに応える。
「しょうがないなぁ……」
「ふふふ」
「明日はお互い早いんだから」
「はいはい、わかりました」
二人は大きめのベッドで寄り添って寝る。李仁が倒れてからは湊音はより引っ付く。心臓の鼓動を聞いてホッとするのだ。
「李仁、生きてる……」
湊音がここまで李仁に依存してしまうのは、彼が子供の頃に母親を自死で亡くしていることも大きく関係している。自死の理由は今も知らない。彼にとっては最愛な人が急にいなくなることには不安に感じてしまうのだ。
つい最近も恩師である上司も若くして事故で死んでしまった。
少しでも李仁が寝返りを打つと湊音はしがみつく。
「もういかないで、どこにも……」
でも気づけば彼は眠りにつく。
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