最終話 シノノメナギの恋煩い
お寺に着くと慶一郎さんが先に来てプランナーさんやメイクさん、カメラマンさんと話をしていた。
それぞれ別の部屋に通されて着替える。ああ、やっぱり首元のキスマークが気になるわ。
「梛さんは肌も綺麗で羨ましいです」
「ありがとうございます……」
「このことをいうのもあれですけど……私たち女性よりも女性らしいというか……すいません」
「いえ、別に大丈夫です。嬉しい、です」
メイクさんの手つきは細やかで優しい。薫子にもやってもらったことはあるけど、人にメイクをやってもらうと魔法をかけてもらったかのよう。
お寺でウエディングドレスなんてミスマッチかと思うけど露出するところが総レースだからお上品ね。
メイクさんも顔が綻んでいる。
「ほんと素敵です……早く皆さんに見てもらいたい、あっ」
ん? みなさん?
常田も着替えたかしら。さらにイケメンになってたらどうしよう。
わたしはメイクさんにエスコートされて部屋を出た。
「わぁ、綺麗! 綺麗よ、梛!」
……?!
「梛さん、素敵!」
そこには常田じゃなくて、お腹の大きい夏姐さんと次郎! な、なんで?!
あ、メイクさんが言ってた
「みなさんが喜ぶ」
ってこのこと?!
「僕が呼んだんや」
常田!! 髪の毛はセンター分け。かっこいい……。そしていつもの笑顔!
「梛の晴れ姿を僕と兄ちゃんだけしか見れないのもあれやろ? あと夏姐さんの息子くんたちも中庭で待ってる」
わたしは窓から覗くとたしかに夏姐さんの息子くんたちが。
ん? あそこにいるのは……寧々! 横には男の人。ぴったり寄り添ってる。
「常田に来てくださいって言われてねー。久しぶりの連絡がまさか梛のウエディングドレス見に来てって。わたしはあんたの術後心配してたのに……」
と、夏姐さんは常田を軽く小突く。
「すんません、姐さん!」
「まぁいいけどさっ。なんか嬉しいよぉ〜二人が二人が……幸せであってっ……うううう」
夏姐さん……。次郎が彼女の涙を拭く。あなたたち本当幸せそうだよ。
って、なんか目から何か溢れてきた……。
「はいはいティッシュ……今から撮影ですからね」
涙……止まらない。
常田がわたしの頭を撫でてくれた。
「梛、いくで。外もいい感じに晴れてきた。みんなに見せてやろうや」
するとそこには見慣れた顔が……。
「梛ー! 可愛いー!」
「もう最高じゃない!!! あー、私がメイクしたかったわー」
「サアヤ! 薫子!」
なんでこの二人が? 常田はニコッと微笑んだ。二人の連絡先をなんで知っているの?
「薫子さんの事務所にメールしたんや……」
そこまでして?!
すると他にも……。
「おー、梛さん。綺麗やわー。って浩二も男前やな」
お父様!
「おとん……」
あれ、常田は知らなかったらしい。慶一郎さんがサプライズで?!
お父様が来たらお母様……。もうあれからどうなったんだろう。常田くんは特に何も言ってなかったけど。
すると慶一郎さんの持っているタブレットの画面が映った。
『浩二兄ー!』
誰? この茶髪のギャル。寝起きだよね、明らかに。
「美波ーっ、久しぶりやなぁ。寝癖酷いぞ」
これが常田の一個下の妹?! 看護師さんしてるとか言ってたけど完全にギャルである。
『もうさー、病院今大忙しでー夜勤明けなんやけど! あ、梛さん。兄がお世話になってまーす、美波でーす』
「は、はじめまして……東雲梛です」
美波さんがじーっと私を見ている。画面越しから。
『はーっ、すっごーい。美人! てか大丈夫? 浩二兄はすっごい口悪いけどさぁー』
「あ、あ……大丈夫です」
『ふーん、兄ちゃんいい人捕まえたじゃんー。じゃあまた寝るわー、梛さんまたいつかお酒飲みましょねー』
と美波さんの回線は切れた。
「まぁ、見た目はあれやけどもええ子やからさ。話し相手になってくれや」
「うん……」
それよりも……常田はお母様に見てもらいたいんだよね、きっと。
「ほないこや……」
私は常田くんの手を引っ張った。
「なんや、梛」
「もう少し待とう……お母さんにも今日のことを教えたんじゃないの?」
常田は少し顔色を変えたけど笑ってる。
「……ええんや、いこや」
わたしは首を横に振った。
「もう少し待とうよ」
「梛……」
するとその時だった。慶一郎さんが慌ててタブレットをまた開いた。
「よかったわ、間に合った」
画面がついた。
「おかん……」
『浩二、私は見ずに梛さんを見なさい』
「うん」
『梛さんもまっすぐ前を見て進みなさい。周りの人にも感謝して。でも自分らしさは失わないようにね』
「はい……」
お母様……。常田がギュッと私の手を握り返してくれた。
「行くで」
「うん」
わたしたちは涙をたくさん流していた。こうして多くの人に認められわたしたちは一緒になれた。
ありがとう、ありがとう……。
終
おまけ
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