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第二十八話 シノノメナギの恋煩い

 アパートにつき、部屋の中へ。本当寒い。もう明日の朝くらいにでも霜が降りそうなくらい。
 次郎さんの眼鏡も曇るわけだわ。

 常田と2人で鍋を作る。常田が切ってわたしが鍋に入れる。

「今日も仙台さん来てたね」
「う、うん。卒業制作のことでだって。もうあっという間にそんな時期なんだね」
「だなー。僕の退院もそれくらい。ちょうど桜咲いた頃や。楽しみ」
 常田の手術は年明けに再検査して少し経ってからだから少し長い。

「なにも梛に相談しなくても。本当に僕がいないと梛がどこかに行ってしまいそうで怖いわー」
 ニヤニヤ笑いながら野菜を切って話す常田。真剣に心配してるのかしてないのか分からない。

 するとスマホを持ってきてラジオ視聴アプリでとある番組を流し出した。

「こないだな、鯉鯉さんのゲストで出ていたラジオを聞いたんや……」

 そういえば今度地元で収録したラジオに出てるって言ってたけど、常田は聞いたみたい。わたしはスマホに耳を澄まして聞いてみた。

『先日東海地区の方へ寄せやらせてもらったんですわ』
 あ、鯉鯉さんの声。相変わらず声良い。

『そこにべっぴんなお嬢さんがおりましてな。最初隣の男性と寄り添っていたから夫婦かと思ったら違う、男性曰く大切な人と言ってたんですわ』
 ……こ、これってわたしたちのこと? べっぴんなお嬢さんって。常田を見るとまだ聞いて、と言われたから聞く。

『大切な人ってなんでしょうかね、妻でなければ……恋人でもない? まだワシにもチャンスありませんか、なんてね。またお会いしてお茶でもしたいと思いましたわー、はははっ』

 !!!
 常田は再生を止めた。
「もってもてやわ……梛。ほんま心配や。あのジロウって男からも手紙もろたやろ?」
 な、なんで知ってるの。常田はヘラヘラしながらわたしを見てる。

「常田、わたしは確かに手紙もらったし、仙台さんからは言い寄られてるけど好きなのはあなただけなんだから」
 なんなら、でんさんからのお見合いの話もしても良い。

「なに常田。そんなにヘラヘラしてるの、いっつも思うけどヘラヘラしながらそうじゃないこと言うし」
 常田の動きが止まった。と思ったらまた動いた。

「僕ね、昔はあまり笑わなくってね。根暗中の根暗で。そしたら怖いとか、なにを考えてるか分からないって怖がられてなー。それにこの目つきやろ。どーすりゃええやろと思って。とりあえず鏡の前で笑うようにしたんや」
 知らなかった。確かに真剣に何かしてる時はすごく目つきキツイと思ってたけど。わたしは別にそれはそれで良いと思う。

「そしたらこうなったんや」
「雑っ! その間の経緯飛ばし過ぎ」
「ナイスツッコミー、梛っ。さすがさすがーっ」
 ほら、こうやってポジティブに持っていく。もっと嫉妬してもいいのに。図書館にいる時ジーッと見てたくせに。

 常田が火を止めた。
「常田、まだ煮込まないと……」
 ……常田……?
 たまに出てくる真剣な顔の彼が目の前にいた。

「梛は僕だけのものや」
 !!!



 そのまま押し倒されてキスして……

 床の上で抱きつき合ってゴロゴロして気づいたら炬燵の中。


 ホットカーペットつけてぬくぬくと下着姿で……。常田はまだキスしてくる。
「梛、炬燵のなかでもええな」
「う、うん……」
 これ、嫉妬してる。やたらとしつこかった。

「お腹すいたな。その前に梛はシャワー行くか」
「うん……あ、鍋」
「僕がつけてくるから先ええで」
 常田はこたつから出てパンツと肌着を着て台所へ、わたしは風呂場へ。キスマークが首筋に残ってる。明日昼からだけど薄くなるかしら。

 鏡の前に立ってわたしは自分の姿を見る。なんで30すぎて今、こんなにいろんな男の人に言い寄られるのだろう。もっと若い時に来て欲しかった。なんてね。

 ……常田以外はわたしが男だなんて知らない。化粧を落とすと少し女の子っぽさが無くなるわたし。それでも常田はなんとも言わない。

 ピンクのルームウェアに着替えて台所に行くと鍋がぐつぐつ。下着姿で鍋を見つめる常田。

「さむいでしょ、早く着替えてきなよ」
「おう、待っとったで。じゃあ僕もシャワー浴びてくるわ」
「うん、鍋見ておくね」
「ああ、でも見てても何にも起こらへんけどな」
 ああ、かわいい。こたつの熱がまだ体の中に残ってる……。

続く





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