第四十八話 シノノメナギの恋煩い
そしてわたしたちは結婚式を挙げることになったのだ。
あっという間に結婚前日。籍は入れることはできないけど、写真撮影を地元のお寺ですることになった。常田と初めてデートをしたあのお寺で。
大阪の方がいいんじゃ? と思ったら常田がどうしてもっていうから。
常田の体調も安定してこの日を迎えることができた。わたしは先に岐阜に戻っていた。
そして日にちをずらして常田は慶一郎さんの運転でここまで来てくれるのだ。明日の打ち合わせもあるし、なんだかんだでバタバタである。
ほぼ毎日のようにビデオチャットしてたしなぁ。打ち合わせもずっとしていたし。常田は体調も安定して来月から点字司書として復帰できるようになってわたしもほっとしている。
でもソワソワしてしまう。泊まっていたホテルで待っていたわたし。
ピンポーン……
来たっ!
わたしは深呼吸をして玄関に向かう。ドアを開けた。
「梛ぃー」
電話越しでない常田の声……。だめだ、それを聞いただけで涙がっ。わたしはまた落ち着かせてドアを開けた。
そこには常田がいた。わたしの大好きな彼の笑顔が見えた。
「梛ぃっ」
「常田」
わたしたちはすぐ抱き合った。
「お二人、仲の良いことで」
慶一郎さんが横で目をニコニコしていた。ああ、しまった……人前でイチャイチャを。
「ここまでありがとうございます」
「いえいえ、僕には色々役割がありますからね……あ、車に忘れ物が」
と慶一郎さんは常田を置いて帰った。このあとカメラマンさんたちと打ち合わせに行くんだけども……久しぶりに二人きり。面と向かって顔合わせるとなんかドキドキ。
「なんや、毎日見とるやろ……しっかり僕を見ろや」
そ、そんなふうに言われるとどきっとするじゃない……。わたしは彼の手をひいて部屋に入れた。彼は前よりも分厚いメガネをしていた。でもこれも無意味になってしまうと言っていた。
常田の通りジッと彼の目を見る。そしてまた抱きしめる。
温かい、常田の体温、匂い、感触、心臓の鼓動……。幸せ。
彼もギュッと抱きしめてくれる。ぎゅーっと、ぎゅーっと。そして……また見つめあって……。
キスをする……。柔らかい唇、ああっ……温かい舌。絡めあう。わたしは壁に追いやられる。
「梛……梛や……ずっと会いたかった」
「常田、わたしもよ」
「ベッド行こうや、もっと抱きしめたい」
「だめよ、慶一郎さんが……」
「兄ちゃんも気を利かせて車行ったんやろ」
「だけど……打ち合わせもあるよ? すこししか時間ない」
「だったら今ここで……」
「嫌よっ」
「久しぶりに会って嫌やって言われると辛いわ」
「……ごめんっ……んっ!!!」
さらにキスをしてくる常田。もうかなり興奮している……服に手を入れてくるし、変態さは変わらない。
「もうずっとしとらん……耐えれん、生の梛見たらっ」
床に押し倒される。玄関でなんてっ!
「おあずけっ!!!」
「なーんでー!!!」
なんだかんだで元気そうだけど……側から見たら。
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慶一郎さんの運転でブライダルスタジオに向かい、打ち合わせと衣装合わせ。
わたしはネットで衣装を見ていたけどドレスだと肩幅の広さやゴツゴツしたライン、喉仏が目立つから着物にしようかなと思ったけどプランナーさんが首や肩から手の部分まで総レースの綺麗なドレスを見つけてきてくれたのだ。
綺麗……。プランナーさんはわたしが本当は男であると知っていても女性として接してくれた。最初から。
そしてわたしの悩みも聞いてくれてこうしてドレスも用意してくれたのだ。
死んだばあちゃんが楽しみにしてた、わたしの花嫁姿。見せたかったなぁ……てまだ本番は明日なんだけどね。明日はもっと化粧をして髪の毛も綺麗に整えてもらう。
でもメイクさんに軽く化粧もしてもらった。
……わたしも花嫁さんになれる。
「おまたせ」
わたしはドレスに着替えてカーテンを開けた。そこには白のタキシードを着た常田。あら、男前。全身白い服なんて普段着てないからね。服一つで変わるのね。
横にはカメラを持った慶一郎さん。
「梛、綺麗や……」
常田……嬉しい。涙が溢れてきた。
「まだ泣くのは早いやろ、梛」
「だってぇえええええ」
「あああああ、泣くとドレスにつくやろ涙!」
すごく嬉しい。すごく、すごく。
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打ち合わせを終わらせてご飯も食べにいった後に慶一郎さんは別でホテルに泊まり、そしてわたしと常田はホテルに戻った。
何度もキスして、何度もハグして、何度も何度も。
「梛、愛してる……」
「常田、わたしもよ」
「愛してる……」
わたしの首元を吸い付く。音を立てて。って、キスマークついちゃう! いくらレースで隠れるからって……。
「やめて、ダメよ……ねぇ」
「愛してる」
「だからっ、ちょっとぉ」
「梛ぃーっ、愛してるぅ」
いつも以上に甘えてくる。
てか明日も早いんだし……。
「なーぎっ」
わたしの好きな常田の可愛い笑顔……。
「しょうがないわねぇ」
続く
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