第十三話 僕のもの
二人が結ばれてから1ヶ月後。湊音は完全に李仁に夢中である。自分から求め、自分から腰を振り……目をトロンとさせている。
あっという間に湊音の体が順応していく姿を見て二人はより一層仲良くなってきた。
いまだに外で出歩く際は周りの目を気にする湊音だが、二人でいる時はベタベタの甘々になる。
二人の息は荒い。手をしっかり握り合い、互いの温度を共有させて、湊音は李仁の白い背中にキスをし、たくさんキスマークをつけた。
「つけ過ぎ……」
「他の男に抱かれないように……」
「バカぁっ」
「知ってるよ? まだ元彼と会ってるんでしょ?」
「……」
「彼は李仁がバック好きだっていうからこのキスマーク見たら僕が李仁を愛して満足させてるって示したい」
「……」
李仁は黙ったままである。彼がまだ元彼のカイとまだ関係を持っていたのは事実であるが、あくまでも身体だけの関係だけでカイにはもう相手がいる。
湊音は数回か李仁と一緒にカイのマンションのことで話し合うために会ってはいるが、李仁のいないところで昨日李仁と会った、抱いたなど聞かされていた。
「もうカイとは会うなよ。しかも会っても車の中とか外でやるんだろ? そんなの大切にしてる人がやるようなことじゃないよ」
「……」
李仁はまだ口を閉ざす。
「僕はどっちかというとね、李仁に抱かれて入って来られる方が好きだけど……これも気持ちいいね。早くこの気持ちさを知っていたら……早く李仁を満足させれたのに」
優しく李仁を撫でる。
『前の妻にはこんなに優しくしなかったくせになんか愛おしく感じる、なんでだろう』
李仁が仰向けになり、湊音を見つめる。李仁の目から涙が流れた。
「ごめんね、ミナくん。逆らえなかったの。カイに。でも断ればよかったの。ねぇ、もっとキスマークつけて。私の体、ミナくんに染めて……」
「李仁……」
「愛してるっ」
「僕もだよ、愛してる……」
優しくキスをした。そして互いにキスマークをつける。たくさん、たくさん。
そして今度はまた李仁が湊音に入る。
「李仁は僕のもの……」
「ミナくんはわたしのもの……」
実は翌朝にカイがやってきて権利書にサインをする日であった。その時間までギリギリまで愛し合った。
「李仁は絶対僕のものだからね……」
「なに仲良しっぷりアピールしてるんだか。首にキスマークたくさんつけて」
カイは笑いながらコーヒーを飲む。李仁は彼の言葉を無視して契約書にサインをしていた。
もう李仁は腹を括っていた。カイとはキッパリ別れて湊音だけを愛すると。
「あんだけ俺を求めていたのに簡単に鞍替えか。俺の代わりになるのか、その男は」
「代わりだなんて。わたしは純粋にミナくんを愛してるの……」
「ついこないだまで俺のものを打ち込んでほしいと尻をフリフリしていたクセに」
カイのその言葉に湊音は口をクッとする。今回、マンションを譲り渡されるのはカイから李仁への慰謝料代わりでもあった。
湊音はマンションも受け取らずきっぱり縁を切ったほうがいいと李仁に言ったが他にいい条件の場所が見つからないのと、愛着もあってこのまま譲り受けることに同意したのだ。
「まぁいい、おままごとごっこになるだろうな。そしてまた俺のところに戻ってくると言ってもダメだからね、李仁」
「戻らない、絶対戻らないから」
李仁は机の下で湊音の手を握る。強く。少し震えてる。
『李仁……大丈夫だよ。僕も絶対李仁を離さない。守る、今度こそ』
湊音は手を握り返した。カイは書類を見てそれをしまった。
「連絡は僕にください。それを李仁に伝えます。会う時は必ず僕と李仁で2人で会います」
湊音がそういうと李仁はびっくりして湊音を見つめた。
「ああ、はい……そうしましょうか。そうしたいならどうぞ」
カイは少し呆れていたが彼の中でも諦めはついたようだ。少し去り際の背中は寂しそうだったが、振り向くことはしなかった。
「李仁……」
李仁の目から涙が出ていた。
「大丈夫、僕がいるから。彼は君にとって大切な存在だったかもしれないけど、もう壊れたものだから戻すことはできない。戻ってはいけない……」
「そうね、カイも別の相手いるし……わたしも幸せなところ見せつけてやればいいのよね」
カイは李仁から別れた後、有名女優と付き合っている。李仁と同時期に付き合っていた女性の中の1人でもある。
李仁もだがカイも浮気をしていた。しかも全員女性だったという。
『遊びで付き合ってたのだろうか、別れるだけでこんないい部屋渡すなんて……普通そんなことしないのに』
数年後、カイが自伝を出して同性愛者と告白したが大手企業の御曹司でもある彼は家族に反対されたことや李仁のことと思われる最愛の人という文章を見ることになるがそれはだいぶ先の話である。
李仁は涙を拭い、湊音を見る。
「よし……掃除するわよ! 残ってるカイの荷物はこのスペースに置いて。送りつけてやるから。で、カイの部屋はミナくんのお部屋にするの。さー、泣いてる場合じゃないわよ」
「おう、やるか!」
と、掃除を始めるが数時間後2人は喧嘩をする。寝室の前で。
「ベッドは捨てて」
「処分するとお金がかかるのよ」
「いやだ!お金払うからあのベッドは捨てて」
ベッドを捨てる捨てないで喧嘩。湊音曰く、他の男と李仁が寝たベッドには寝たくないとのこと。
李仁は高級ベッドでこれもカイから買ってもらったもので気に入っていた。
「じゃあ……布団だけ処分なら……」
「マットレスも。他の男の汗とか何まで染み込んでたら嫌だ」
湊音の頑固で嫉妬さには李仁もタジタジ。こんなにもきついとは思わなかったようでだんだん口数も減っていく。
「シーツも捨てる。タオルも捨てる!」
「……いい加減にして。好きにすれば? タバコ吸ってくるからその間に袋に詰め込んでおいて」
いい加減李仁も頭に来たようだ。ベランダに行き李仁はタバコを蒸す。ここでもカイとの思い出が蘇る。タバコを2人で吸いながら話したことや、たまにここでセックスをした時のことを。夜風が気持ちよく、ムードが良くなってそのまま……。
「まだ未練たらたらじゃない。わたし」
と独り言。こんな気持ちで湊音と暮らしてまたさっきみたいな喧嘩が起きてしまったらもうどうにもならないだろう。
吸い終わった頃、気持ちを落ち着かせて李仁は部屋に入ると湊音はペタンと床に座っていた。
「ミナくん?」
その声で湊音は振り返った。元気のない顔である。
『僕いくらなんでも嫉妬しすぎたよね……李仁困らせちゃったよ』
李仁は湊音を後ろから抱きしめた。タバコの匂い、甘い香水の匂いがふと香る。
「どーしたの? 掃除また始めるわよ」
「ごめんね、李仁……ベッドはあのままでいいよ。しばらく一緒に暮らしてシーツもタオルも2人で気に入ったのを見つけて買おうね。わがまま言ってごめん」
湊音は李仁の手を掴む。ギュッと。さっきのカイと話をしているときとは掴む感じが違う。
「わかる、私がフワフワしてるから不安になっちゃうのよね。よし、もうシーツ捨てる!」
「えっ……」
「マットレスも捨てる!」
「ちょ、ちょっと……」
「捨てたら家具屋に行くわよ」
「……李仁ぉ……」
「んで、その新しいマットレス、シーツの上でセックスするからね」
「そうきたか……」
2人は見つめあって笑った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?