2番・・・ ⑤コントみたいな鉢合わせ
みゆちゃんのマンションの部屋は9階で、エレベーターの前にあった。
私はジャージのまま勢いよく飛び出した。
すると同時にエレベーターがチンっ!っと。
誰かが上がってきたところだった。
それを見た私は驚いた。
エレベーターから出てきたのは、みゆちゃんと若頭だった。
顔を見合せ固まる3人。
そりゃそうだ、こんな展開マンガやドラマでしか見たことない。
「お前、コラっ!何時や思とんねんっ!」
静寂を切り裂いて、巻き舌の私の怒声が響き渡る。
ヤクザの若頭とか関係あらへん、ケンカになったらなった時や!と思っていた。
「あ、いや、怒らんとって下さい!僕が無理に連れ回しただけですから!」
若頭は私と年の頃はそう変わらない。
やはり、ヤクザでも上にいく人間は出来た人間だと思った。
チンピラだったら売り言葉に買い言葉で、確実にケンカになっていただろう。
若頭はそう言って、着いたばかりのエレベーターで降りていった。
残されたみゆちゃんと私。
「お前、家までは連れて来ーへん約束やったんちゃうんかいっ!」
ブチ切れ状態の私。
「ちょっと!!あの人、大事なお客さんやから、弟や言うて電話して!」
へっ?
元々、パワーバランスは向こうが上。
「早く!電話してっ!!」
惚れた弱みというヤツで有無を言わせぬ状態で、みゆちゃんが発信ボタンを押した携帯を手渡してきた。
「あ、先ほどは失礼しました。僕、弟なんです。きつい言い方してすみませんでした。」
「あ、いいです。いいです。気にしてませんから。」
若頭は相変わらず穏やかに言った。
こんなウソ通じるんか?
「あ、Uさん、さっきの弟なんよ。ちょっと、ヤンチャな子やから、あんな乱暴な言い方してゴメンね。また、連れて行ってね!」
は~・・・、何なんよ・・
これが、水商売の子と付き合うってことなんか・・
「お前よー、こんな時間て何やねん!」
普段、私はみゆちゃんに対して、お前呼ばわりなんかしない。
怒りで自分を制御できなくて発してしまった。
「しょうがないやんか!こっちは仕事なんやから!」
なんか、これって私が悪いみたいな空気になっている。
「それと、マンションの部屋までは連れてこん約束やったんちゃーうんか!」
「んー、それはゴメン!・・・」
、、、、、お、終わりかいっ!
「コブちゃん、機嫌治してっ!」
甘えた口調で私に言うみゆちゃん。
結局、惚れている方というのは最後は許してしまう。
みゆちゃんは、外見、生稲晃子さんみたいな可愛らしい顔をしている。
しかし、中学の頃は、相当悪かったらしく、グループの頭をしていた。
そして、鑑別所にも行くくらい筋金入りの悪だった。
気性は相当激しく、亡くなったヤクザだったGさんとケンカになり、包丁で脳天を叩かれ、血が出たけれど頑なに病院に行かず治したとの事だった。
付き合いはじめの頃。
店に迎えに行った帰り。
買いたい物があった私は、コンビニに入った。
みゆちゃんは降りずに車に乗っていた。
レジで支払いを終え、店を出た私。
すると、激しい口喧嘩をしている声が聞こえた。
誰かと思い、よく見たら、みゆちゃんだった。
隣の車の元ヤンみたいな2人の女と激しい口論をしてた。
へ?僅か5分足らずの間に何があったん?
私は急いで、みゆちゃんたちの元に駆け寄った。
「ど、ど、どしたんよ!」
「コブシ!聞いてよ!コイツらが因縁つけてきよったんよ!」
「何、言うてんねん!お前やろが!」
「何やてっ!」
その頃は、まだ、みゆちゃんが悪かったという話は聞いていたけれど、怒った姿を見るのは初めてだった。
双方ともエキサイトして、収集がつかなかった。
「今から、○○組の人間呼ぶわっ!」
二人の女のうちの1人がそう言った。
「おう!呼べ呼べ!呼んだらエエやないかいっ!」
みゆちゃんは一歩も引く気はなかった。
私は、電話を掛けようとしている女に言った。
「アンタら、悪い事言わんから、帰った方がエエで。」
みゆちゃんの腹の座りようにビビったのか、二人の女たちは帰っていった。
とまあ、腹の座り具合は、その辺のヤクザも顔負けという感じだった。
もしかしたら、私は、どエライ女の子と付き合う事になったのかもしれないと思っていた。