桜の子 ⑦浮気はダメっ!絶対に‼

「おいっ!Aっ!開けろっ!」


激しくドアを叩く音。


「コブシちゃん、逃げてっ!」


え~、こんなコントみたいな展開ホンマにあるんやと、一瞬、冷静に考えている自分が滑稽に思えた。


「はやく、はやく!」


おーそうや、俺逃げなアカン、忘れてた!


脱いだ服をかき集め、スニーカーを持ち、パンいちでベランダから逃げた。


もしもの時は腹を決めるしかないと、彼氏がいる女とつきっている時点では思っていた。


しかし、プロとして活動していたので、ヘタな傷害事件は起こしたくなかった。


私はこそ泥のような動きで、そそくさと逃げた。


その後、しばらくしてAちゃんが言った。


「私、彼氏と別れたの。」


聞くと、Aちゃんは私の事を本気で好きになり、彼氏に対する態度も冷たくなったせいか、彼氏が他に男がいるんじゃないかと疑っていたらしい。


それがうっとおしくて彼氏に別れを告げたとの事。


私はAちゃんが本気で好きになったと聞いて、マズイな・・・と思いつつ、関係をやめられなかった。


そんな、ただれた日々を送っていたある日。


ある出来事が起こった。


その日もAちゃんとヤりまくりたいというクズな欲求が抑えられず、東京の鶯谷駅のホームで待ち合わせた。


東京の方はご存知だと思うけれど、鶯谷という場所。


駅から出ると、すぐにラブホテル街がある。


つまり、それ目的の人間にはパラダイスみたいな場所。


「わかったーっ!楽しみーっ!」


素直に喜ぶAちゃん。


栄養ドリンク3本飲みしたりして、やる気マンマンな私。


夜の20時に駅ホームで待ち合わせた。


19時40分くらいについて、余裕かましてベンチに座っていた。


19時55分着


いないな・・・。


20時着


一本乗り遅れたんかな・・・。


20時10分着


おいおい・・・。


20時20着


・・・・・・。


21時着


・・・・・・・・・。


22時着


・・・・・・・・・・・・。


23時着


・・・・・・・・・・・・・・・。


今のように携帯がない時代。


Aちゃんの家に電話しても留守番電話に繋がるばかり。


今のこの歳であれば、事故かな?とか、何か突発的な緊急事態がおきたのかな?と、冷静に考える事もできただろう。


しかし、当時の私はまだ若く、Aちゃんが遅れた事の怒りしかなかった。


「アイツ、何しとんや!」


23時を越えた辺りからは、遅れている事に対する怒りしかなかった。


ベンチの座り方も、足を大きく開き、顔も夜叉みたいな顔付きになっていただろう。


すると、一人の酔っぱらったサラリーマンが千鳥足で私の前に。


「おっ兄ちゃん、そんな恐い顔してどしたん?」


そう言って、私の顔に顔を近付けて、私の頬をペチペチと叩いた。


「・・・・お前、それ以上やったら殺すぞ。」


怒り過ぎて、怒鳴らず静かにドスをきかしてサラリーマンに言った。


「おー、恐い恐い!」


サラリーマンは私の怒り具合が伝わったのかどこかに行った。


私は普段から殺す気もないのに気軽に「殺す」って言葉を使う奴が嫌いだった。


あの時の私はそれくらいの怒りを抱いていた。


24時を過ぎて、Aちゃんはもう来ないだろうと思った。


24時40分の最終より一本早い電車で帰れば、ギリ自宅に帰れた。


しかし、それを逃すとタクシーで帰らなければならない。


どうせ来ないだろうと、たいして悩まず終電の一本早い電車に乗って帰った私。


そして翌日、事の真相がわかった。


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