2番・・・ ⑫最後の緊急事態・・・そして、伝えたかった言葉
風雲急を告げる展開。
「ど、ど、どういう事?」
話によると、車で送ってあげると言われて、長い常連さんだし、信用して乗ったらしい。
ところが、マンションが近付いたところで、降ろしてほしいと言ったところ、急に無言になり、車を走らせ続けているとの事。
「ちょー、そいつに変わって!」
男に携帯を渡したみゆちゃん。
「はい。」
無機質に答える男。
「お前、コラっ!誰の女に手出してんのかわかっとんのかっ!お前、俺の女に指一本でも触れたら殺すからなっ!脅しで言うてんちゃうからな!!」
「・・・。」
「おいっ!聞いてんかっ!お前、確実に殺すから・・」
ツー、ツー、ツー・・・
クソッ!
電話は切られた。
非常にまずい展開。
探す当てはなかったけれど、じっとしてはいられなかった。
とりあえず、車に乗り込み発進させた。
すると、しばらくして、みゆちゃんから着信。
「コブちゃんと変わって、しばらくして、ゴメンとか言って、降ろしてくれたわ。焦ったわ~。(笑)」
「笑い事ちゃうで!下手したら、拉致られて、やられるところやったんやでっ!」
私は、笑いながら話すみゆちゃんにホッとしたのと同時に、無警戒な事にイラついた。
ダメだ・・みゆちゃんを早く水商売から上げたらなアカン。
所詮、水商売は色恋ギリギリのところで、男から金を引き出すところがある。
きれいに遊べる客ばかりではないので、一歩間違えばという危うさが水商売にはあると思う。
思えば、みゆちゃんと付き合って2年。
たくさんケンカして、罵りあったり、別れそうになったり・・・・ラジバンダリ。
アカン、止められへんかった。(笑)
それでもこうして二人一緒にいる。
「このまま生きてくのしんどいな・・・」
付き合った当初は、口を開けばそんな言葉ばかりだった。
そして、薬に走っては気をまぎらわせていた。
でも、いつからか、未来の話を口に出すようになった。
「コブちゃんとの子供って、どんな顔してるんやろね。」
私の下積み生活も、残すところ後1年。
みゆちゃんに、危険な仕事を続けさせるのも限界かなと思っていた。
そろそろ男として、ケジメをつけるべき時期かな・・・。
以前、二人で初めて泊まり掛けで旅行に行った場所を、みゆちゃんは気に入っていた。
夜景の綺麗な港の側にあるホテル。
「また、行きたいな。」
よく言ってたっけな・・・。
私は“ある決意”を持って、みゆちゃんを誘った。
「えー、行く行く!」
無邪気に答えるみゆちゃん。
プロポーズの言葉を考えるのは二度目。
男としては、一生に一度しか言わないと思っていた。
残念ながら、一度目は婚約までいったけれど、ダメになってしまった。
プロポーズの言葉を一生懸命考えた。
その“言葉”を言うという事は、一生背負う覚悟を持つという事。
まだ、その頃は退職金が入る前だったので、消費者金融の借金もあった。
だから、給料の3ヶ月分というわけにはいかなかったけれど、指輪を用意した。
助手席で無邪気に喜ぶ、みゆちゃん。
うってかわって、人生のケジメをつける決意を心に秘め、若干緊張していた私。
「いや~、ここ、来たかったんよね~!」
ホテルにチェックインして、部屋に入るなりそう言って、無邪気にベッドにダイブするみゆちゃん。
気が強すぎるのが玉に傷だけれど、こういう無邪気なところで許せちゃうんだよなぁ・・・。
はしゃいでるみゆちゃんを見ながら、しみじみ考えていた。
「コブシさん!みゆさん、コブシさんに相当ハマってますよ!」
みゆちゃんを慕っていた後輩ホステスのTちゃんから聞いた話。
私はイエローモンキーの“JAM”を好んで、よく歌っていた。
そのイエローモンキーのCDを買ってきて、部屋で聞きながら、Tちゃんに私の話をしていた事があったらしい。
みゆちゃんは、普段、プライドの高いツンデレなので、あまり私に好きだとかは言わない。
「へ~、可愛いとこあるんやな。」
そういう意外性があるのも惹かれた理由なのかもしれない。
昼間はレジャー施設で遊び、レストランで夕食を食べた。
お酒も飲んでいたけど、緊張の為か、ほとんど酔わなかった。
レストランを出て、みゆちゃんの好きな夜景が見える港を歩いた。
辺りは静かで、海の音しか聞こえない。
石の階段みたいなところに二人で座った。
「コブちゃん、ありがとね、また、連れてきてくれて。」
二人の間に、沈黙が流れる・・・。
聞こえるのは海の音だけ・・・。
私は、並んで座っていた石の階段を一段降りた。
そして、意を決して言った。
「みゆちゃん!こんな器の小さい俺やけど・・・俺・・・俺・・・一生2番でエエから!だから・・結婚して下さい!」
指輪と共に、跪いて言った。
何も言わないみゆちゃん。
私が顔を上げると、声を押し殺していたのか号泣していた。
その顔は、涙でグシャグシャになっていた・・・。
そして、泣きながら私に言った。
「コブちゃん、私より先に死なへん?私置いて、先に死なへん?私一人ぼっちにせーへん?コブちゃんは私置いて先に死なないよね?ずっと傍にいてくれる?もう私・・・私・・・一人ぼっちは嫌なんよーーーーーっ!!」
みゆちゃんの問いかけに、一つ一つ「死なへん!」「せーへん!」と首を横に振りながら答える私まで泣けてきた。
ずっと感情を押し殺していたのか、最後は号泣しながら叫んでいた。
「俺は、みゆちゃんより先に死なへん!俺はみゆちゃんの死を見届けてから、死ぬから!・・・あ、追いかけてすぐ死ぬってわけじゃないで。」
変に正直な性格の私。
そこは捕捉なんかせんでエエのに、バカ正直に泣きながら付け加えた。
「バカ!アンタのそういうところよ!言い訳すんな!(笑)」
二人泣きながら笑いあった。
そして、とてもとてもとても大事な事。
「みゆちゃんとの子供欲しいから薬やめよか。」
「うん。」
それから、みゆちゃんはスッパリ薬を止めた。
そして、私とみゆちゃんは結婚した。
あれから20年。
みゆちゃんはいない・・・
そう、今、私の傍にいるのは、源氏名のみゆちゃんではなく、本名のY美。
生きる希望を失っている人間に、もう一度生きる希望の光を・・これがどれほど大変な事か。
でも、こうして二人の子供を授かり、それなりに幸せに暮らしている。
「ホンマ、アンタってエエ加減やわ~!」
「そうよ!そうよ!パパってウザいし、キモいんよ!」
かつてのみゆちゃん、そのコピーロボットのような娘のMちゃん(中2)に、刃先上にして、グッサグサ言葉の刃で刺される日々。
え~と、別に2番でなくてもエエで、5、6番辺りで。
こんな事言うから怒られるんやな。(笑)
私がまともに付き合った女性は、桜子と今の妻の2人だけ。
それが多いのか少ないのかわからない。
でも、その2人共に、自分の人生をかけてもいいと思えるほど愛した。
1人は成就し、もう1人とは成就しなかった。
1人と成就しなかったから、もう1人と出会えた。
そう考えると、運命というのは、一本の糸で繋がっているんだなあと思う。
長々と私の話を読んで下さった方、ありがとうございました!