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賢者の教えと見えない風景

ある時、一人の若者が旅に出ることを決めました。彼は、新しい場所を見て、新しい経験を積み、自分自身を変えたいと思っていました。「遠くに行けば、何か特別なものを発見できるはずだ」と信じていたのです。

彼は長い間、山を越え、海を渡り、異国の都市を巡りました。美しい風景に心を打たれ、壮大な建物や文化に触れて、最初は驚きと感動に満ちていました。しかし、やがてその新鮮さは薄れ、どこに行っても同じような気持ちになってしまう自分に気づきました。「これほどの距離を旅しても、心が満たされないのはなぜだろう?」と彼は疑問に思いました。

そんなある日、彼はある村で賢者に出会いました。その賢者は、静かに庭を眺めて過ごしている老人でした。若者はその賢者に自分の旅の話をし、どうしても満たされない気持ちを打ち明けました。

賢者は微笑みながらこう言いました。「お前はずいぶん遠くまで旅をしてきたようだが、まだ本当の発見をしていないようだな。真の発見とは、新たな風景を探すことではない。新たな目で世界を見ることだ。

若者はその言葉に戸惑いました。「新たな目で見るとはどういうことですか?私は世界を見てきましたが、どこか満たされません。」

賢者はそっと庭の一輪の花を指差しました。「この花を見てみろ。お前が初めてここに来た時に、この花を見ただろうか?」

若者は首を振りました。「いいえ、気づきませんでした。」

「それが新たな目ということだ。お前は風景の中をただ通り過ぎていただけで、本当に見ることはしていない。旅に出る前に日々の中で見逃していた美しさ、些細な瞬間の価値に気づくこと、それが真の発見だ。」

若者はその言葉を聞き、ふと自分がどれだけの景色や人々を無意識に見逃していたかに気づきました。彼はこれまで、遠くにある「特別なもの」を探すことに夢中で、目の前にある豊かな世界を見ていなかったのです。

それから、若者は自分の旅の歩みを止めました。そして、今まで気づかなかった周囲の小さな出来事や、風景の一つひとつに目を向けるようになりました。彼は新しい場所を探す旅をやめ、日常の中に隠れた美しさを見つける旅を始めたのです。

その後、若者は賢者のもとに戻り、感謝を伝えました。「私はやっと分かりました。発見の旅とは、外の世界を変えることではなく、自分の目を変えることだということを。」

賢者は再び微笑み、「それこそが、本当の旅の始まりだ」と答えました。

そして、若者は新たな目で見ることの意味を理解し、これまで以上に深い満足感を得ながら、自分の日常を生きることができるようになったのです。

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