フランス日記:12月11日「ジャックマール=アンドレ美術館」
語学学校から帰ってきてマダムから「午後は何をするの?」と聞かれた。どこかへ出かけたいけど、とくに決まっていなかったので「ジュヌ・セ・パ(分からない)」と答えるのとマダムは「私はジャックマール・アンドレ美術館へ行くわ!」とのことだったので私も一緒に連れて行ってもらった。
ジャックマール=アンドレ美術館はパリ8区のオスマン通りにある19世紀の銀行家・エドゥアール・アンドレとその妻で画家のネリー・アンドレの邸宅を使用した美術館である。
この夫婦はたいへんな美術品収集家で、1年の半分をコレクション収集のための旅行に費やしていた。ちょうど大量の美術品がマーケットに出回った幸運な時代だったこともあり、主にイタリアの貴重な美術品や工芸品を収集することができた。
▲1000人を招待した大広間
パーティーを催すと、アンドレ夫妻の豪華な邸宅を一目見たいとパリ中の人たちが集まったそうだ。
▲大広間の奥にある階段
階段の上には18世紀のヴェネチアの画家・ティアポロのフレスコ画がある。イタリアで購入したフレスコ画をフランスへ運んできたのだそう。
▲素敵すぎる階段。
この美術館のいちばんの魅力は、マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」の社交界の雰囲気をイメージできることだと思った。帰宅してマダムに「プルーストの描いた世界を想像できて楽しかった!」とやや興奮気味に話すと、マダムに「ゾラの『ジェルミナール』って読んだことある?」と聞かれた。「Non」と答えるとマダムは「『ジェルミナール』も是非読みなさい」と言った。
『ジェルミナール』は北フランスの炭鉱夫のストライキを描いた作品だ。ゾラとプルーストは同時代の作家で、社交界で暮らし、その風俗を詳しく描いたプルーストに対して、ゾラは市井の人々の生活を多く描いてきた対照的な作家だ。
美術館の音声ガイドによると、ゾラは作品の中でジャックマール・アンドレ美術館のような富豪の邸宅を「これみよがしの富の見せつけ」と非難していたらしい。
「フランスは富める者と貧しい者と戦いの国よ」とマダムは言葉を添えた。
マダムのこういう示唆を与えてくれるところが本当に大好きだ。
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プルーストを読んでから行くもよし。ゾラを読んでから行くもよし。
何も読まなくても、19世紀のブルジョワの空間を味わいにいってほしい。