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2022年IISS活動記録(パブリケーション編)

英国のロンドンに本拠地がある、外交・安全保障系シンクタンク、国際問題戦略研究所(International Institute for Strategic Studies: IISS)で技術・安全保障担当リサーチ・フェローとして外交・安全保障政策研究を行なっている越野です。

最初の二年間は、船橋洋一氏が立ち上げたアジア・パシフィック・イニシアチブ(現:国際文化会館の事業)の初代松本・佐俣フェローとして、派遣という形でIISSで勤務をしておりましたが、幸い今年からは正規のフェローとして採用され活動の幅を広げることができました。

私自身はまだまだ政策研究者の駆け出しに過ぎませんが、最近、海外の外交・安全保障系シンクタンクでどのような活動をしているのか聞かれることが増えましたので、一年間どのようなことをしているのか、三つのシリーズ(パブリケーション編、海外出張・登壇編、ポッドキャスト編)に分けてご紹介させていただきます。

以下今年執筆をした本や論考等をご紹介します。

IISS アデルフィー・ブック


3月には、共著で日本の地経学アクターとしての役割に注目をした共著、Japan’s Effectiveness as a Geo-Economic Actor: Navigating Great Power Competitionという、初めての本を出版させていただきました。

地経学的アクターとは、経済をツールに外交上の戦略的目的を達成することを目指す主体と定義していますが、本の中では、日本の地経学的戦略の目標や政策ツールの歴史的変遷を辿り、今後も地経学的アクターとして有効的であるために検討すべき四つの要素について議論しています。

さて、アデルフィー・シリーズは、チップマンIISS所長によると、「ポリシーメイカーが長距離のフライトに乗っている間に読み切れ、ある国外交・安全保障政策について何か新しい視点得る」ことを目的とした出版物です。

1950年代に設立されて以来、IISSが出してきたフラッグシップの論考集で、日本では戦後の論壇を率いていた高坂正堯氏や、「吉田ドクトリン」を名付けられた元防衛大学校長の西田正氏等が執筆をされたりもしました。また、IISSは1970年台から1990年代までは日本の外交官を受け入れてきた歴史もあり、佐藤行雄元国連大使や、佐々江賢一郎元駐米大使等も執筆をされた歴史のある刊行物を出版できてとても光栄でした。

地経学分野の第一人者である、船橋洋一先生(アジア・パシフィック・イニシアチブ理事長)、兼原信克先生(元内閣官房副長官補兼国家安全保障局次長)、寺澤達也氏(元経済産業審議官)、ビル・エモットIISS会長(元エコノミスト誌編集長)等には取材をさせていただいたり、様々なご指導いただいたり、本執筆の過程で甚大なご協力いただきましたこと、厚く御礼申し上げます。

さて、約4万ワードという短い本ですが、初めての本の出版、ローンチ・イベントからプロモーション活動まで多くのプロセスがあり、学ぶことがとにかく多かったです。

IISSでは、以下のような短い宣伝動画を撮影したり、

7月には、対面でロンドンでローンチ・イベントを開催しました。

右から、IISSジャパン・チェアのロバート・ウォード、IISS理事会会長のビル・エモット、
IISS所長のジョン・チップマンと

当日の様子はYouTubeにも上がりました。

慶應義塾大学法学部政治学科時代の恩師の細谷雄一先生もケンブリッジ大学にフェローとして滞在しており、駆けつけてくださいました。

細谷雄一先生と、松本・佐俣フェロー2期の冨樫さんと

その他、米国ではワシントンDCとニューヨークの二箇所でプロモーションイベントを実施し、DCでは秋元諭宏笹川平和財団米国会長兼理事長のご協力をいただき、アーミー・ネイビークラブで米国のアジア政策関係者とラウンドテーブルを開催しました。

ディスカッションの様子

ニューヨークでは、ジョシュア・ウォーカージャパン・ソサエティー会長のご厚意で、財界関係者向けに発表をさせていただきました。

夏には、東京でもプロモーションで、IISSに会員として所属してくださっている佐橋亮先生のご厚意で、ハイブリッド形式のローンチ・イベントを開催していただきました。

当日のディスカッションの要旨と動画は以下からご覧ください。

このように僭越ながら様々な形でプロモーション活動をさせていただけたのは、日々お世話になり尊敬している国内外の先生方やIISSのリサーチ以外のメディア・イベント・出版部門等のスタッフさんのおかげですので、改めまして、心より感謝を申し上げます。

日本語訳も出版予定ですので、また別途ご案内させていただきます。

IISS ストラテジック・ドシエ


その他の、IISSの代表的な出版物へコントリビューションとしましては、防衛・軍事部門が出した、防衛装備品の対外輸出の政策やトレンド等を分析をした分析本(ストラテジック・ドシエ)の日本の章を担当させていただきました(三文書が出たので来年また政策にアップデートがありそうですが)。

IISSの「ストラテジック・ドシエ」は10万ワード規模の数百ページに渡る長い分析本で、論考にさらにカラフルなインフォグラフィックやチャート、写真等も豊富に加わった資料集のような出版物です。

年末ギリギリに出版され、まだ正式なローンチは来年になりそうですが、序章のチャプターはこちらから読めます。

IISS 分析ブログ

さて、前半は本の出版・宣伝活動や度重なる出張等でバタバタとしてしまいましたが、防衛白書・概算要求がで始めた後半からは、年末の戦略三文書のリリースに向けて、いくつかの短い分析を出したりもしました。

スタンド・オフ防衛能力

一つ目として、8月末に出た異例の概算要求(7つの事項要求)を受けて、日本のスタンド・オフ防衛力(特にミサイル分野)の分析を執筆。IISSが独政府の支援により立ち上げた「ミサイル・ダイアローグ・イニシアチブ」の一環として、執筆をしたものです。

※スタンド・オフ防衛能力とは、「侵攻する相手方の艦艇などに対して、脅威圏外の離れた位置から対処」する能力です(防衛白書)。

※ ご参考までに、今月ミサイル・ダイアローグ・イニシアチブの成果物として、過去80年間のミサイル技術の分析を行なった分析本がIISSから出ましたので、以下ご紹介します(無料でダウンロード可能)。

防衛省気候変動対処戦略

また同月、防衛省の気候変動タスクフォースがまとめた、「 防衛省気候変動対処戦略」について、気候変動と安全保障分野を専門としている同僚と短い論考を出しました。

同タスクフォースの設立は、2021年4月に米政府が開催した「気候サミット」で発表された背景があります。日本は、災害への対処能力は評価されてきた一方、防衛分野におけるエネルギーシフトが遅れていると、欧米から指摘を受けてきました。気候変動が日本に与えるインパクトについて、具体性に欠ける部分もあり、課題も残りますが、今回、日本が気候変動と安全保障に関するまとまった戦略を初めて出したことは、重要な一歩です。

グローバル戦闘機プログラム(GCAP)

12月には、待ちに待った日英伊の次世代戦闘機共同開発についての発表を受け、空の領域を専門としている防衛・軍事分析部門シニア・フェローのダグラス・バリーと一緒に、今後の注目点についての短い分析執筆しました。日本にとっては米国以外の国との防衛装備品共同開発は初めて。欧州でも高い注目が集まっています。

戦略三文書

今年最後の記事として、12月16日に閣議決定され、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、国家防衛整備計画の戦略三文書の分析を出しました。

日本で国家安全保障戦略が初めて策定されたのは2013年。9年後初めての改訂となりましたが、なぜ、「戦後の安全保障政策を大きく転換するもの」であるか、特に海外のオーディエンスを意識して、国防戦略ができた意義や「軍民分離」の課題解消に向けた取り組み等に注目をして、分析をまとめてみました。

外部の研究事業への参加


また、最後になりますが、二年間参加させていただいた、全米アジア研究所(National Bureau of Asian Research: NBR)の研究事業の成果物として、二つの論文が出ました。

一つ目は、「中国人民解放軍の近代化(宇宙・サイバー分野)と日米同盟のレスポンス」(論文はこちらから)

NBRのレポート(2021年度版)

二つ目は、「中国人民解放軍によるサイバー、宇宙、自動化システム分野における脅威に対する日本(日米同盟)のレスポンス」というテーマ。ご関心がある方はこちらからご覧ください。

NBRのレポート(2022年版)

IISSのリサーチ・フェロー以上のポジションのミニマム基準は年間25,000 ワードの執筆なので、今年はしっかりと満たせましたが、来年も引き続き沢山書き続けたいと思います。

以上。

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